株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2011年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第102回
 
ゼオライトの用途
 原子力発電所から漏れ出した放射能を回収する材料として、ゴルフ場の土壌改良材としても使われてきたゼオライトが用いられている。
ご存知のように沸石(ゼオライト)は天然鉱物として産出するが、成分は酸素とケイ素とアルミだから工業的にも生産可能で販売もされている。
一般に物質を細かく砕くと違った物性が現れることが知られており、微細化によって表面積が広くなると、周りの物質を吸着しやすくなる。
海老料理の下ごしらえに片栗粉をまぶして水洗いするとゴミが取れるのと同じ原理だ。

ゼオライトは多孔質なので粉砕しなくても重さの割に表面積が大きく、同じ用途で使われる活性炭等に比べて高温でも使えるのが利点だ。
またゼオライト自身が負に帯電しやすいのでカルシウムやマグネシウムイオン等のプラスイオンを引きつけやすく、結果として水の硬度を下げるので水質軟化剤として使用される他、土壌分析でお馴染みの塩基置換容量(CEC)を上げる性質もある。
工業的に多孔質の空隙の大きさを調整できれば、ヨウ素131やセシウム137だけを重点的に吸着させる事も可能かもしれないが天然鉱物では選択性はなく、真水に放射性物質だけが混じった原子力発電所施設内ならいざしらず、ゼオライトを畑や海に撒いても他の不純物を吸着するばかりで放射能回収効果は薄い。
また、放射性物質を吸着したゼオライトはりっぱな放射能廃棄物だから、瓦礫と一緒に投棄してはならない。
同様の理由で、海に流れだした放射性物質はシルトや泥に吸着され、海底に住む貝や海老や蛸、底魚のヒラメ等に蓄積やすいので、暫定基準値を超えた海産物(農作物も同じ)は海に捨てないで欲しい。
原子炉がメルトダウンしたという事は、半減期7億年のウラン235を焼き固めた燃料ペレットが溶融した訳だから、漏れた量によっては半減期30年のセシウム137どころの騒ぎではないのだ。

 さて最先端の原子力工学の分野で、ローテクのゴルフ場で一般的に使われてきた資材がもてはやされるのも不思議な巡り合わせだと思うが、ゴルフコースでの用途は吸着剤としてより多孔質を利用した有用バクテリアの住処としての役割が大きいように思う。
池の水の水質浄化もフェアウエーのサッチ分解も、薬剤で処理するより微生物と共生する方が安価で永続的な効果が得られるからなのだ。

 自然界では粒子の小さい物が地表近くに集まり、粒子が大きく重たいものが地中に埋まる性質がある。
グリーンの床構造などは、泥、シルト、砂、砂利、礫、岩石の順番の上位二つを、透水性を高めるために剥ぎ取ったような構造なのだ。
微細化して重量の割に表面積が多きい(つまり栄養素を吸着しやすい)層を無くして、貧栄養下でも育つ芝のような植物に適した環境を、人工的に作り出している訳だ。

本来、芝類は海岸の砂地にパイオニア植物として自生していたが、牧草用として更にゴルフ用に改良されてきた。
交配の結果生まれてきた現在の品種に、先祖のDNAがどれほど残っているか分からないが、塩害には結構強いのではないか?と疑っている。
英国のリンクスコースでは波飛沫が風に飛ばされてグリーンに振りかかる所などたくさんあるし、北陸のコースでも同じような話を聞いた。
もし、グリーンに雑草が蔓延ったら少量の海水を撒くという手法が使えれば、究極的なエレガント管理なのだが。