株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2011年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第103回
 
ハンガリー料理のパプリカ
 ハンガリー料理は一皿の量がとても多く、何にでもパプリカ(巨大ピーマンみたいな物)を入れるのが特徴だ。
パプリカはコロンブスがアメリカ大陸から持ち帰ったナス科の多年草で唐辛子属だから、種類が多く色も形も様々。
赤い物が多いが、黄色や緑の物もあり、ほっそりした薄緑色の物は極端に辛い。
この辛味の元はカプサイシンで劣性遺伝らしく、パプリカはシシトウガラシ同様、辛くない唐辛子を品種改良した選択栽培品種なのだ。
胡椒がもてはやされた大航海時代に英名レッドペッパーと命名されたが、唐辛子と一括りにする国も多く、パプリカという名前も唐辛子を意味するクロアチア語をハンガリー語読みしたものらしい。
つまりパプリカとは、れっきとしたハンガリー語なのだ。
同じような例だが日本では鮭の卵をイクラと呼ぶが、イクラはロシア語の魚卵の意味で、キャビア(黒イクラ)も鮭卵(赤イクラ)もタラコさえもロシアではイクラと呼ぶ。
ところで鮭族(サケやマス)は川で生まれて海で育ち、生まれた川に戻って産卵する事が知られているが、中には海に下らず川の中で成熟する個体も存在する。
降海型と残留型と呼ばれるそうだが、ベニザケとヒメマスやサクラマスとヤマメ等が良く知られた例で、ベニザケの両親から生まれたヒメマスも、サクラマスとヤマメの間に生まれたサクラマスも存在するらしい。不勉強の小生はつい先日までこの魚達は別の種類だと思っていた。
何を言いたいかというと、学術名も含めて名前や俗称は社会状況や時代の影響を受け、注意深く辿っていくと意外な発見をするということ。
また生物の成長過程は多様で、同じ遺伝子を持って生まれても、育った環境次第では体重が十倍違う事も起こり得る。
ということなのだ。
何度もお伝えした事だが、ゴルフ場で使われる寒冷地型芝にも沢山の種類があるが、戦後の日本のグリーンは米国式の単一品種を育てる方法が大多数を占めてきた。
フェアウエーや他の場所では違う芝種を使うのに何故?という根源的な疑問はさておき、エバーグリーン(常緑)であって欲しいパッティングサーフェスでは、単一品種を管理する方が効率的だろう。 と、先人は考えたのだと思う。
一方で英国(特にリンクス)では伝統的に、自然な植生に近いという理由から複数種の芝を混ぜて使用するのが一般的で、フェスキュー類が六割でベント類が四割弱の比率が理想的だと言われる。
ボルドーワインのカベルネとメルローの比率みたいだが、根を深くはるフェスキューと浅根のベントを組み合わせて、根圏域を拡大しようという意図も読み取れる。
現実的には、年間降雨量700mmを境に多雨地域ではベント優勢の環境に落ち着くし、富栄養環境の内陸型コースではポア属(スズメノカタビラ?)が支配的になる。
また3.2mmを下回るような低刈りはできないから、乾燥した夏場を除いてグリーンスピードにも限りがあるのだ。
ということは、ゴルフ用の芝の生育環境としては極端に湿潤な日本では、降雨で床が緩む事も含めフェスキューの可能性は低いのだが、逆に言えば芝種選択より床構造の方が重要で、長雨でも軟弱化しない床の開発が急務だろう。
気相の割合が高く強固で、適切な水盤距離を保て、保守が容易で経年変化が少ない床が開発できれば、同じ多雨地域のアジアのゴルフ新興国にも応用できるからだ。