株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2011年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第104回
 
食洗機とIT技術の価値
 ご自宅で食器洗い機を使っている読者も多いと思う。
食器洗い機は手洗いに比べて確かに節水にはなるのだが、多くは熱源として大量の電気を使うから今年は大変だ。
欧州でも大多数の家庭で使われているが、サイズが60cm幅のアンダーカウンター型の一択なので、夫婦二人と猫一匹しかいない家庭には大き過ぎて持て余している。
そこで一緒に入れたくはないのだが、食器やガラス類と調理器具を一緒に洗っている。
先日気付いて驚いたが、我が家の鍋や洋食器は結婚当初から物で、度重なる引越しにも逸れる事なく、ほぼ四半世紀にわたり使い続けてきた。
新婚旅行先の百貨店で免税手続きをし、別送品として入手したと記憶しているが、使用年数が長いから多少高価であっても元を取ったと思う。
半世紀前に英国に新婚旅行に出かけた友人によると、当時は1ポンドが1080円の固定レート(実に現在の十倍!)だったそうで、舶来品は目玉が飛び出るほど高価で眺めるだけの存在だったそうだ。
現在では国産の品質が劇的に高まったので海外製品を選ぶ理由はないが、趣向品の場合は昨今の円高の影響もあり、検討する場合もあるだろう。

 ところが技術革新の真只中にあるような製品、例えば携帯電話とかパソコンを、十年使い続けている読者は非常に少ないのではないだろうか。
処理速度や規格が頻繁に刷新されるし、新製品の方が価格も安い事が多く、昔の製品が生き残り難いのだ。
この場合、その時代の普及品を短い周期で買い換え続けるのが対費用効果から見て有利なのだが、製造や販売する側は少しでも付加価値を付けて利潤を上げたいから、基本性能以外の部分を強調する。

 現代においては、何十年も付き合う場合を除いて、各時代の標準性能を持った安物、場合によっては中古品を数年毎に交換するのが得策である。という考え方が先進国では蔓延しているように感じる。
確かに発展途上分野では、技術革新が性能に直結し、結果として価格が下がるのだが、鍋や食器のように斬新さが必要ない物も数多く存在する。
はっきり言って今世紀初頭の十年を見渡すと、新製品の方が安くて圧倒的に高性能なのは情報機器だけなのだ。

 つまり、IT関連技術によって付加価値を付けようとした大多数の新製品は、既に基本的な性能には達しており、この事は工業製品だけに留まらないのかもしれない。
ひょっとして家族関係や会社組織、ゴルフ倶楽部や社会の仕組みまでも基本性能を棚上げして、付加価値という余分な化粧をして体裁を保っているのではないだろうか?
無論、人間関係は工業製品と違って買い替えはできないし、パソコンのようにリセットする事もできず、大概の場合は長い付き合いになる事を忘れてはならない。
大震災と節電の夏を経験して人の絆が再確認された今こそ、ゴルフも付加価値に頼らないスッピンの魅力が何処にあるのか探して欲しいと願う。
為替レートの変動で相対的な値段は五十年も経てば十倍(もしくは十分の一)になる事も起こるが、ゴルフコースの寿命はもっと長いのだ。

 件の古い友人が所属していたゴルフ倶楽部は、バブル前夜に開場した贅沢なコースで、とても褒められたレイアウトではないが、幼かった苗木も二十数年ですっかり成長し、今ではコースに彩を与えるまでになった。
人間や樹木に限らず、年を重ねるごとに魅力が増すものは意外と多いのだ。