株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2011年11月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第106回
 
ゴルフ場の森林環境
今年のハンガリーは異常気象で、初夏の低温多雨期の後はずっと穏やかな高温晴天期が続き、一気に秋をスキップして冬に突入し、体調を崩すのではないか?と心配する人もいるほどだ。
温暖化現象の影響か欧州でも気候変動の幅が大きく、豊作貧乏の農家もあるらしい。
今回は気候変動のバッファーと考えられてきた樹木、林、森林について考えよう。
まず、最近目にする二酸化炭素排出量の杉換算だが、樹齢50年程で樹高2〜30mの杉の大木が、年間に吸収する二酸化炭素量を14kgと仮定して可視化したものらしい。
吸収炭素の多くが落ち葉になる落葉樹の方が炭素固定能力は優れているはずだが、換算本数が多いほうが励みになるという判断なのだろう。
次に降雨時の鉄砲水予防効果だが、河川の急激な水量増加は流域の急峻な傾斜角や排水路のコンクリート化が主たる原因で、台風の長雨には無力である事も経験済みだろう。
学生時代に森林は雨を溜めておく水瓶の役割をしていると習ったが、最近では広大な葉の表面積によって木から蒸発する水分が多く、逆に森林は土地を乾燥させる働きがあるとの意見もあるようだ。
さて、国土の2/3が森林とはいえ土地利用の進んだ日本では、手付かずの原生林は山奥深くにしか残っていない。
ゴルフ場になっている森の多くは戦後の動乱期以降に植林された物だろうから、古くても六十年程の人工林だろう。
若木は密に植樹するが、徐々に間伐を繰り返しながら成長させ、伐採適齢期に二間間隔にするのが伝統的な山仕事だと思うが、下草刈も儘ならない程の人手不足から森林の荒廃が進んでいると聞く。

 ゴルフ場の森林環境はどうなっているのだろう?
元々リンクスランドには森が存在しないから、各ホールが樹木でセパレートされたリンクスコースなどありえない。
また欧州では原生林を伐採して切り開いたコースもあるが、高度に管理されたグリーンが未開拓の原生林と接する場合、集団としての樹木が途切れた場所で採光や通風環境が劇的に変わるから、もはや原生林とは呼べず結果的に景観上の馴染みが悪くなるようだ。
しかも緯度の高い欧州の場合、林間コースを造ると日照被害を起こしがちで、旨い設計家はその場所をバンカーにする例も多く見られるのだ。

 一般的に樹木の生育には厚い土壌層が必要で、火山活動と湿気が多いと岩盤は砕かれ風化されて土になるらしい。
極言すれば、地震が少なく夏に雨の少ない欧州では肥えた土が少ないので石の文化が発達し、日本古来の木の文化は造山活動まで含めた気候風土が育んだ物だそうだ。
そのセイかどうか判らないが、西欧人は樹種には意外に無頓着で、針葉樹と広葉樹は区別しているようだが、フェアウエー傍に杉が生えていても檜であっても、極端に言えば花が咲いたり、葉が落ちたり、実が生ったりしなければ話題になった経験がない。
つまり大概の日本人が原風景として持っている『砂地に松』とか『池の傍の柳』といった風情もなく、『桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿』といった作庭上の格言も当然知らない。
幸いな事にゴルフ場では人手が足りず、作為的な円錐状の刈り込みは見た事がないが、逆に日本のティーグラウンドで見かけて複雑な思いだ。

 もうすぐコース内の樹木の剪定も始まるだろう。
是非、目先のコストばかりでなく、ゴルファーの審美眼や森や樹木の気持ち良さを考えて作業計画を立ててほしい。