株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2012年1月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第108回
 
素描と平面構成
 どんな状況であれ新年はこれからの一年に希望を持って望むことができると思う。
今年は多くの事で今まで通りにはいかないと思うが、新しいチャレンジだと捕らえて、前を向いて進んでゆきたい。

 小生の居住しているハンガリーはEU内だがユーロ圏には入れてもらえず、スイスフラン建ての住宅ローンを抱えている人が多いためか、ユーロより更に値を下げている。
大雑把に言えば直近の半年間で円に対して三割安になり、ユーロが一割強、米ドルが一割弱安くなっている事を考えても殆ど暴落に近いのだ。
同じ通貨を使う国内での取引は関係ない筈。とは言ってもグローバル化した昨今では影響の出ない業種など皆無。
結局は自衛策として便乗値上げが横行し、国全体が負のスパイラルに入ってくるのだ。

 さて今回は新年号でもあるし、時事問題よりゴルフ場の若いスタッフの役に立つような事を書こうと思う。 
小生は美術大学出身なのだが、浪人し予備校にも通った。
当時の美大の実技試験は『デッサン』『平面構成』『立体構成』だったが小生は平面構成が苦手で、予備校の講師(現役の美大生)にコテンパンに酷評されるのが常だった。
『迫田の使う色は田舎色だ』と言われて自尊心をズタズタにされていた。その時の光景は未だに夢に出てくるのだが、今から思うと講師の言わんとする所は『使い慣れている色だけに頼ってはいけない』という事だったのだろう。
もっといえば、色は単独で存在する事は稀で、他色との組み合わせ、つまり『明度比』『面積比』『彩度比』等で見え方が変わるから、可能性にチャレンジして経験を蓄積する努力を怠ってはいけない。
という意味だったのだ。
実はこの話には後日談があり、大学に入って学生生協で売っている舶来の絵の具を買ってみたら、混色しても彩度が落ちないのでビックリした。
『田舎色』の原因は私の腕前ばかりでなく、使用機材のセイもあったのだ。
何の話か想像つくと思うが、口下手な上司や先輩の放言でムカツいても、それは彼らの本意ではないのです。

 さて次はデッサン(素描)で、現代の美術界では古典的なデッサン等による修練は必要ない。と、いう意見も多く、多様化した美術表現を前にすると納得する部分もある。
しかしデッサンする事によってしか学べない『その人に見えていない物は描けない』という真理は大変重いと思う。
人は誰でも実際に自分が感じたり、考えたりした以上の事は表現できないのです。
美大の受験生なら数十枚の石膏デッサンを描くだろうが、一般の方はホンの数枚、しかも対象物はリンゴとか酒瓶とか身の回りの静物で十分なので挑戦して頂きたい。
後に小生も件の予備校の講師になったのだが、良い素描の条件は『構図が良く検討されている事』『水平面が判り、対象がキチンと載っているように見える事』『対象が立体に見える事』だと思う。
大概の人は三番目を主目的と考えるだろうが、美大受験(つまり専門家を目指す)には前の条件が決定的に重要だ。

 素描は白黒だし制限の多い表現手法だと思うが、自らの手で描いた対象物が、程よく収斂してゆく行程はワクワクする瞬間だ。ひょっとして、ゴルフより面白いかも?

 ところで小生自身、未だに習熟できていない事があり、何時の時点で完成と判断するか? 言い換えれば何処で筆を置くかは、試験時間に左右された予備校生活からは、答えが見つからなかった。