株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2012年2月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第109回
 
レイアウト図は上から目線
  十年前まで東欧の優等生だったハンガリーだが、今は欧州の問題児と呼ばれている。
ギリシャ発の財政危機が非ユーロ圏まで拡大するのでは?との観測から、欧州全体が急にキナ臭くなってきたのだ。
現代では、国に限らず組織の凋落は格付けや金融手法も手伝って急激に起きるから、先の予想は当てにできない。
今は基本に立ち返って冷静かつ誠実な現状認識をする事が、結局は早道なのだと思う。

 さて今回は前回に引き続き、物の見え方や描き方を応用したゴルフコースの捉え方について考えて見よう。
絵画で良く使われる錯覚を利用した遠近感の表現方法なのだが、簡単に言えば近くの物は大きく見え、遠くの物は小さく見えるはず。という常識を逆手に取ったものだ。
例えば、前後二つのバンカーを想定すると、手前のバンカーが奥のバンカーより大きければ、プレーヤーは無意識に標準的な大きさのバンカーが並んでいると錯覚して相互距離を誤り、実際よりも奥行きを感じるだろう。
逆に手前に小さなバンカーを配置し、奥に巨大なバンカーを見せると、二つのバンカーに挟まれた空間を狭く感じてしまうのだ。
もっといえば、バンカー面積を変化させる必要はない。
顎の高さや手前のアンジュレーションを工夫して、バンカーを恐ろしく見せる方法など幾らでもあるからだ。

 この種の距離感を狂わすトリックは沢山あり、もう一つ例を挙げると、遠景は青っぽい灰色に淡く霞んで見えるから、逆に近景を表現するには明度差(コントラスト)を強調し、しかも赤い色を使うと効果的なのだ。
つまり、フェアウエーとラフの境目のコントラストが不足すれば遠くに感じ、薄茶色に枯れた高麗芝と色の濃いベントグリーンの明度差は、近く感じる要因になるわけだ。

 ところで、諸兄もゴルフ場を旅客機の窓から見下ろした経験があると思うが、結構アップダウンのあるコースでも上空から見ると平坦なコースに感じるはずだ。この原因は、人間の目線が1.5m程度で巨視的に見れば地面にへばりついているようなものだからで、僅かな起伏でも視界が遮られてしまうからなのだ。
試しにコースのレイアウト図を真上から見ずに、目の高さまで水平に持ち上げて、各ホールのティーグラウンドからグリーンの方向を見通すように眺めて欲しい。
図面を真上から見るよりも、ずっと現実に近く感じるはずだし、この方法を知らない設計者はロクな設計ができないと小生は確信している。

 問題はここからで、日本の大半のホールではフェアウエーよりもティーグラウンドの標高が高くなっている。
言い換えれば4.5m高く設定したティーは1.5mの目線から見ると、3倍『上から目線』なのだ。
その結果、飛行機から見下ろした程ではないにせよフェアウエーのアンジュレーションの視覚効果を無力化させ、ハザード周りのデザイン技法に制限を掛けてしまっている。
『上から目線』に慣れたプレーヤーは傲慢になって畏怖の念を忘れ、沢山の情報を得ているのにプレー速度は上がらず、スコアーも良くなったとは思えないから心配なのだ。
ここ数十年の道具の進歩によってゴルフが地上戦から空中戦に変貌したため、グリーン周りのアンジュレーションの意味が薄れ、代わりに樹木等の立体的な障害物が復権してきたが、ティーグラウンド標高の再考が面白いコース作りの今後の鍵だと思う。