株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
月刊 ゴルフ場セミナー 2012年3月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第110回
 
直角に曲がるドッグレッグ
二月初めハンガリーのフラッグキャリアーであるマレブ航空が突然ストップした。
イタリアのアリタリアとか日本航空とか経営再建中の航空会社はあるが、運行停止措置は自国政府も含め救済相手が見つからなかった訳で事態の深刻さを窺わせる。
中東欧や北アフリカを巻き込んで、欧州危機はヒタヒタと現実になりつつあるようだ。
でも、今回もゴルフコースにおける視覚効果というか錯覚についての話です。
原則的に人間は両目から入ってくる映像の僅かな違いによって対象物との距離を測るらしいが、瞳孔間距離は7cm弱だから200mも離れた場所の奥行きは正確に判断できるはずがない。
実際には知識や経験の積み重ねが、脳によって補完されて知覚されているのだろうが、逆に知能の関与によって奇妙な事もたくさん起きる。
例えば鏡に映った自分の姿は左右逆だが上下逆ではない。だが、寝転がった状態で鏡を見てもその位置関係は変わらないから、目から入った情報を脳が咀嚼して都合よく解釈していることが分る。
つまりコースでも自分の見た情報以上に、レイアウト図やキャディーさんのアドバイスや過去の経験が、距離判断を助けているのだ。
だから正式なゴルフ競技ではフェアウエー横の距離標識の杭(日本以外では見かけない)は撤去されるのだが、現代の競技者は全員が詳細なメモを携帯しており、この作業はあまり効果がない。というか、折角コースに出たのに表示どおり打てるかどうかを競わされているようで、距離標識自体も小生は感心しないのだ。

 ともあれ錯覚の話に戻ると、昔からドッグレッグの角度が30度を超えるホールは要注意だといわれてきた。
プレーヤー目線では罠が仕掛けやすいからだが、本当は拙い設計という意味なのだ。
最初に説明したように人間は200m前方の距離判断は極端に曖昧になるから、45度のドッグレッグはフェアウエーが直角に折れ曲がっているかのように錯覚してしまうのだ。
ドッグレッグの外周に沿って樹木が植えてある場合など最悪で、樹林帯が監獄の壁のように行く手を遮り、陰鬱なホールになってしまう。
でもお化け屋敷やホラー映画が好きな人もいるし、コース全体のアクセントとして展開を変えたい場合もある。
またこの錯覚を逆手にとってドッグレッグのコーナーをショートカットするよう唆す事も可能だろう。
この場合、コーナー先のフェアウエーをドッグレッグ内側が低くなるように、言い換えれば広く見えるようにセットするのがコツで、間違っても逆バンクは頂けない。
更に言えばこの構成はウォーターハザードと馴染みがよく、短いPar4だけでなく、2オンを狙わせたいS字のPar5にも応用できる。
最初のドッグレッグと二番目のドッグレッグの境目にできる尾根もしくは高台のセットの仕方で、素敵なホールになる可能性は無限にあるのだ。

 ところで、プレーヤーの飛距離が伸び続けている現状を考えると、開場当時のストレートホールは丁度良いドッグレッグに改造しただろうが、元々ドッグレッグしていたホールは角度がきつくなり過ぎていないだろうか?
バックティーから240〜250ヤード先のフェアウエー中央にあるIPを現代欧州の標準的な250mに置き換えたら、隣のホールとプレーラインが近くて危険な場所も見えてくると思うので是非レイアウト図で検討して欲しい。