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月刊 ゴルフ場セミナー 2003年11月号 |
発行:ゴルフダイジェスト社 |
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連載コラム グローバル・アイ 第11回 |
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USGAに代わる新たなグリーンの床構造について、欧州設計家協会から質問状が届き、検討結果を報告する機会があったので、事の顛末を説明しておくことにしよう。R&Aの肝いりで始まったこのプロジェクトは、USGA方式一辺倒だった世界中のグリーンの床構造に、風穴を開ける企画として、各方面から期待が寄せられていた。
一つには、現在のUSGA方式は93年に発表されているから、かれこれ10年前の
仕様である為、最新世代のニューベントに対応できていないのではないか?
と言った漠然とした不安から。もう一つは、工事機材や資材、管理用機器や
種苗まで、米国企業に主導権を握られている現在の状況を何とか打開したいと
願う、切実な要望もあったように思う。今回、欧州設計家協会のメンバーに
送られてきたドラフトは、STRI(スポーツターフ・リサーチ協会)がR&Aの要請
で纏め、最終的に設計家達の意見も取り入れた上で発表する、前段階の
物なので正式のものではないが、殆ど完成していると見てよいと思う。
さて蓋を開けてみると、新しい試みは僅かで、殆どがSTRIの追試験、つまり
USGAの研究成果の抜粋で埋め尽くされている。結果的には、広範囲な気象や
土壌条件を網羅するUSGA方式を一般解とすれば、雨量が少なく塩基性土壌に
悩む英国に特化した、特殊解と言った方が良い。期せずして、過去四半世紀の
USGAの真摯な取り組みを再評価する事になってしまったようだ。
雨の少ない欧州に適した床構造は、幾らR&Aの推薦があっても日本で使う
気にはならないが、ルートゾーンの構成について、改めて確認しておきたい事が
二点ある。
一つ目は、今回の物にしろUSGA方式にしろ、基本的には砂に有機物(水苔が
一般的)を体積比で二割程度混ぜる事が推奨されていると言う事なのだ。これは、
本来の意味での芝の有機栽培なのかもしれないが、砂とピートモスを混ぜる
現場を見学した経験から、微妙なノウハウがありそうなので紹介しておこう。
ピートモス(水苔)は英国では安価に手に入る有機資材のため、19世紀から良く
使われてきたが、肥料として使う場合、その繊維質をどのように扱うかが
鍵になる。あまり細かくしすぎると分解が一度に急激に起き、長いままだと
分解しないので水持ちが悪い。つまり、ゴルフ用のグリーンを造る場合も、
ちょうど天婦羅の衣を作る時の要領で、ザックリと混ぜ合わせるのがコツらしい。
日本では、純粋の砂だけでゴルフ用のグリーンを造っている所もあると聞くが、
浅学の私が欧米で砂だけでグリーンを造ったと聞いた例は、USGAの研究者が
裏庭に作った研究用の物だけである。
もう一つの確認事項は世界中で、土壌改良材と称される多孔質の無機物を
混ぜるグリーンの床は、日本以外には無いという事実だ。帰国してからこの一年
の間に、日本国内で販売されている土壌改良材の幾つかを、サンプルとして
取り寄せてみたが、とても高価なのでビックリしてしまった。火山性の地層が
多い日本ならではの資材だが、考えてみればとても有用な材料であり、透水性、
保水性、肥料持ち、バクテリアの住処等、どれをとっても不満は無い。USGA方式
などを筆頭とする欧米での床構造の試みは、このような優秀な資材が手に
入らない国での、苦闘の歴史と解釈できる。多孔質の無機物の助けを借りず、
砂の粒径だけで透水性と保水性のバランスを取るからである。逆にいえば、
日本の芝草管理者は優秀な資材に頼った管理をしている訳で、それなら高価な
USGAの排水構造でなく、安価なカリフォルニア式でも良いのではないか、と
思ってしまった。
最後に、ゴルフ場の芝草管理は一般的な農業とは別の管理を目指すべき
だと思う。我々に要求されているのは、健全で綺麗な芝を育てる事ではなく、
良いゴルフ環境を維持する事だと言う事実を明記しておきたい。
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