株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2012年5月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第112回
 
菅笠と野袴のススメ
  海洋性気候の日本と大陸性気候の欧州では、春の訪れ方が相当違う。
三月中の日本は降雪することもあるが、南樺太と同じ緯度で東京より年間平均気温が5℃低いはずのブダペストの若者は、この時期Tシャツ姿で街を歩いており最高気温も10℃近く高いのだ。
当然、芝の管理手法も違うだろうが、気になるのは内陸性気候下で収穫された種を日本で栽培しても望む性質が得られる保証はないように思う。
 さて今回は、季節を先取りした服装がお洒落だという経験則から、蒸し暑い日本の夏を乗り切る方策として菅笠を紹介したい。
炎天下の日中に戸外で活動するゴルフには、日射病予防の観点から帽子の着用を強くお勧めするが、気候風土に合った被り物は忘れていた古典的な物だったという話です。
小生がゴルフ始めた三十年前には、大人のゴルファーはハット又はハンチング、キャップは半人前の年少ゴルファーが被る物だった。因みに英国のキャップは伝統的につば幅が狭く、米国の通称ベースボールキャップはコメカミ辺りまでの幅広つばが特徴だ。
一方、菅笠は形も色々、素材強度の点で竹製が好みだが、どれも台座を介して被るから笠と頭との間に空間ができて風が通り抜けて蒸れないし、布製の帽子よりクラッシャブルゾーンがあるので打球事故にも安全だろう。
小生は渓流釣りで使われる鮎傘から、お遍路さん用の大型の物まで各種試したが、どれもスイングには影響なかった。
しかも、お遍路用には付属品でビニール製の防水カバーまであり突然の雨にも万全だ。
日本の便利グッズは凄い!

 肝心の日射を防ぐ効果だが、ゴルフ大国の中では緯度の低い日本での日中には丁度良いバランスだと思う。
蛇足だが太陽等が眩しい時、大概の日本人は手の甲を空に向けて影を作るが、多くの欧米人は手のヒラを光源に向けて光を遮ると思う。
菅笠の影はその意味でも日本人の感覚に合っているのだ。

 今回はもう一つ紹介したい服装があり、和式ニッカ・ボッカ(ニッカーボッカーズ)とも言える膝下が絞ってある袴(カルサン)である。
元々袴は男子の礼装だったが、戦国時代にポルトガル人のカルサオというズボンをヒントにして動きやすく改良され、鎧下の戦支度となった物だ。
これをハイソックスと組み合わせると膝周りに余裕ができ足捌きがとても軽快なのだ。
更に袴には腰板があり、腰の位置が高く(つまり足が長く)見えるし、視覚的に膝下で足を分断するので不恰好な足でも目立ち難いと思う。
平均的な日本人の着こなしは袖丈と裾丈が長すぎるようだ。
舶来品を着ていると誇示する目的で始まったのだろうが、これは自ら手足が短いと表明しているようなもので奇妙な風習だと常々思っていた。
カルサンやニッカ・ボッカは長ズボンと違って裾が汚れず洗濯も楽だから、雨で地面がぬかるむ季節に好適で、欧州では冬場、日本は多雨地域なので通年使用できる。
デザインも現代的なアレンジをする余地が豊富なのだ。
実際に試した訳ではないのだが、英国の著名倶楽部のセクレタリーに、菅笠や野袴が日本の伝統的な衣装である証拠写真を持参し当該倶楽部での着用許可を求めたら、きっと快諾してくれると確信するし、十中八九は現物を触りたいと興味を示すと思う。
小生が試していない理由は、夏場に乾燥する欧州ではこの服装は気候的な適正がないからだけなのだ。