株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2012年6月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第113回
 
高麗フェアウエーのディボット跡処理
 ハンガリーの数少ない特産品にマンガリッツァ豚と呼ばれるブランド豚があり、パプリカ等の香辛料と組み合わせたソーセージが人気だ。
そういえばスペインにもイベリコ豚というブランド豚があったが、考えて見れば両国ともイスラム教とキリスト教の境界近くに位置し、血生臭い歴史を持っている。
近代においても共産主義や独裁政治など、国民同士が憎みあった時代を経て現在の平和を享受しているのだ。
それに比べて日本は自然災害が多いものの、結果的に安定した政治経済による繁栄が続き、少なくとも現在は他民族を武力攻撃したり、料理界は別にして、関西人が関東人を弾圧したりはしていない。
当たり前に思えるかもしれないが、世界中を見渡すと相当すばらしい社会なのだ。

 ゴルフはキリスト教文化の中で育まれてきたから、礼儀作法にも教会的(西欧的?)な風習が色濃く残っており、特に男性の場合、クラブハウス内で脱帽する習慣などキリスト教の礼拝堂でのしきたりが受け継がれていると思う。
欧州の時代劇(コスチュームドラマという)を観ると、宮廷内でさえ着帽しているし、逆から例えば、アラブの王族がゴルフ場に来てターバンを脱いでクラブハウスに入る光景など想像できますか?
つまり、この種の作法は当該倶楽部の風土や民度や時代を反映すべきであって、理由も解らずに形だけを模倣したり、強要したりすべきではない。

 ところが、文明が合理性のある発展を遂げる場合、例えば上下水道が敷設され衛生環境が改善されてペストなどの伝染病が激減する場合など、全員が恩恵を受ける訳だから、誰もが率先して守るべき作法になりえると思う。
例えは変かもしれないが、現代ではトイレで用を足したら、水を流すのが作法だ。
ゴルフで言えば、自らがグリーンに付けたピッチマークを直後に自分で治すのは当然だし、その行為で不利益を被る人もいない事も重要だ。
もう一つはディボット跡の処理だが、高麗芝のフェアウエーが一般的な日本ではディボットがバラバラに飛び散って復元不可能なので、この機会に説明しておきたい。
欧州のディボット跡の処理は、ディボットつまり削り取ったターフを元の位置に戻すのが殆ど唯一の基本的な行為だ。
乾燥した夏場の欧州では、せっかく戻しても根の千切れたターフが活着する事は稀で、数日内に枯葉のように乾燥してしまうが、それまでの間は下部を保湿し新芽の成長を促進すると信じられている。
一方、毎回ターフを削り取られて凸凹になったフェアウエーを平坦に直すのはグリーンキーパーの役目で、厚目砂を結構な頻度で行うのだ。
私は目砂袋を携行するプレーヤーに会った経験はなく、乗用カートに1リッター程のプラスチック容器を二十年間で二度発見した事がある。
中身は発芽直前の種子を混ぜた湿らせた目砂だそうだが、欧州では手引きカートのプレーヤーが大半だから、目砂は全く一般的でないのだ。

 日本ではゴルファーのマナーとして推奨する人もいるが、目砂だけだとマイクロバンカーができて後続プレーヤーが不利益を被る。もし欧州でターフを戻さず目砂だけする事がマナーになったら、競技者全員が大きなスコップで目砂を積み上げて、フェアウエーが卸金状になるに違いない。
高麗フェアウエーを汲み取り式だなどとは思わないが、ディボット跡の処理に問題がある事も事実だと思う。