株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2012年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第115回
 
ゴルフと交通マナー
突然だがこの夏に帰国する事になった。
今回はロシア2年、スペイン3年、ハンガリーが3年目だからそろそろだとは思っていたが、
ユーロ150円時代に暮らしていた欧州から100円の時に帰国するのは、ユーロ建て預金が目減りする訳だから口惜しい。因みに前回は英ポンドが250円時代に渡航して、150円の時に帰国したから、我が家はホトホトお金に縁がないのだろう。

ロンドン在住だった十年前『ウィーケスト・リンク』というタイトルのテレビクイズ番組が流行っていた。
内容は十人程の回答者が順番に答え、連続して正解すると賞金は増え続けるが、質問の前に賞金を貯めるか上乗せするか決める事ができる。 一定時間後に回答者の多数決で脱落者を決め、最後の勝者が貯まった賞金を独り占めするという資本主義社会の縮図のようなゲームだった。

その後フランスやスペイン、日本でも現地化されたパクリ番組を見たが、この番組の肝である脱落者投票をめぐる司会者との掛け合いが、国民性の違いからか面白くない。 集団の中で相手の力量を判断しながら協調や排除を正当化する技術や、それを論破する女性司会者の猛々しさはアングロサクソンならではだ。 日本版など戦闘ゲーム感覚のクイズオタクが弱肉強食論を振り回すので、観ている側までもが居心地悪かった。

このクイズ番組に限らず最後まで生き残る秘訣は知識や運ではないかもしれない。 実社会では敗者が敗者の足を引っ張る事や、誠意より悪意で社会が動いているようにも見える昨今だが、欧州を去るに当り最近のユーロ不安を考えるに、困っている人の手助けする事が当たり前の世の中であって欲しいと願う。

さて、欧州に通算十五年も住んだことになるが、ゴルフと交通マナーは連動していると常々思ってきた。 ゴルフはスポーツ特有の娯楽的な要素だけではなく、社会的というか社交的な側面もあるから、周囲に対する気配りがとても大切だと思う。

そういう意味から交通マナーと似ているのは当然で、ルール違反や身勝手な行動は諌められるのが文化なのだ。 運転技術だけを見ればイタリアが一番で、抜け目ない運転といえばパリっ子を連想するのが欧州人の一般解なのだが、礼儀正しく穏やかな運転といえば英国に止めをさす。

大陸人にトロいと揶揄される事もあるが、標識や制限速度も含めて、英国交通マナーは大人の文化が根付いている。  バルセロナからブダペストに来てビックリしたのはこのマナー意識の違いで、幅寄せ、割り込み、中抜きが常識らしく小生は緊張の連続だ。 公平に考えれば中欧のハンガリーは貧乏国で、西欧と違い夏のバカンスで外国に行く人は極限られている。つまり、諸外国の交通マナーを体験する機会がない為、狡っからく品がない運転と、上手な運転の区別できないのだ。

そこで、自らが人身御供になって英国式運転マナーを実践する事にしたのだ。その結果、たった2年だが明らかに他人を思いやる運転をする人が、ブダ側では増えてきた。 無論、相変わらず無茶な運転も多いのだが、一人の東洋人の運転マナーに触発されるだけの素養を、ハンガリー人は持っていたのだろう。 『郷に入れば郷に従え』の格言もあるが、周りに迷惑が掛からない範囲で信念を曲げない事も無意味ではないし、日本に帰国した時の指針にしたいと考えている。