株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2012年11月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第118回
 
伝統・文化の継承
開場百年を目前にして東京駅が復元された。

今回の大規模工事は、関東大震災にも耐えた駅舎が、終戦直前の空襲で焼け落ち、急遽修復した時以来だそうだ。 元々東京駅は、新橋と上野の中間に中央停車駅として計画され乗り入れ路線も僅かだったが、現在では新幹線が2路線10ホーム、在来線が4路線18ホーム、他に地下鉄やバスの発着施設もある。

つまり竣工時の計画より何倍も乗降客が増え、導線も複雑になり、空調や電気設備や耐震構造など時代進化に対応しつつ、復元を果たしたのだ。 500億円と噂される金額はともかく、歴史的な文化遺産に敬意を払う機運が実った事はとても喜ばしく感じる。

世界遺産にも登録されているブダペスト市街地は、古い建物ばかりだと思われるかもしれないが、実は東京同様3/4世紀前の大戦でメチャメチャに破壊され、一面の瓦礫の山から復興したものだ。 建築的には、元々が異なる時代様式を混ぜた折衷式だったためか、復旧しても悪趣味に感じるが、建物に愛着を持ち続ける西洋文化と、日本との違いを考えさせられる。

 日本にも飛騨の白川郷とか京都の街並みとか、伝統的な佇まいが残っている場所はあるが、それは戦火を免れた地域だけで多くの場合焼け野原からの復興は、旧来の街並みや建築とは無関係に行われてきたようだ。 このスクラップ&ビルト手法はアジア的だと思うのだが、永久に工事中で完成する事はなく、その結果として活力があるというか煩雑で纏りのない景観を作り出している。

 現実的には、百年継続する生命も企業も国家でさえも稀だから、順次淘汰されるのが普通なのだろうが、復元にはその時代の証拠というか文化の継承という意味もある。 が、時代進化を受け止めた上で解決策を見出し、旧来より未来の価値を高める事は簡単ではないのだ。 改修も時代進化の不具合是正を目的に行われる事が多いが、過去との決別を意図したものは少なく、良い所取りを期待した挙句に残念な結果になってしまった例が多い。

 復元も改修も既存の価値を正統に評価した上で、新しく作り直す以上のエネルギーを注ぎ込んでこそ成功する。 だからこそ伝統が育まれ、現在や未来の利用者に訴える事ができるのだと思う。

ただし、コースを開場当時のオリジナルに戻そうという議論は、飛距離の出なくなった理事が良いスコアーを出したいという卑劣な発想が発端になっている事が多く、時代進化に適応しない事に加え、将来に対しての展望がなさ過ぎるように感じる。

ゴルフは飛距離を競うだけの競技でないことは確かだが、自らの誠実さを磨く場でもあることを忘れてはならない。 この事は自戒の念も含めて、肝に銘じておきたい。

さて、日本ではバブル崩壊後に開場したゴルフ場は僅かだから、大半のコースは20年以上の歴史があるはずだ。 言い換えれば、グリーンキーパーに限らず、ノウハウやデータの蓄積があるはず(?)で、それを正統に評価できない人や組織は、復元や改修に手を出すべきではない。

また、毎年の時代進化に合わせて数%の改善(効率化)をしなければ、現状維持さえおぼつかないように思う。  厳しい注文ばかりで申し訳なく感じるが、東京駅は周辺を巻き込みながら発展し、歴史と文化を継承しながら、見事に再生できたのだ。 貴兄も知恵と工夫で乗り切ってもらいたいと切に願う。