株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2013年1月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第120回
 
ハーハー(Ha-ha)
今回は過去の遺物として忘れ去られた『ハーハー』の再利用について書く心算だったが、その前にクロスバンカーについての私見を述べておかないと先に進めないようだ。

クロスバンカーは『フェアウエーを遮断し、横切るバンカーである。』と解説される事が多いが、日本ではフェアウエー内にバンカーを設置する例は少なく、専らティーショットで入りそうなフェアウエー両側ラフにあるバンカーを便宜的にそう呼んでいる。

本来のクロスの意味は、フェアウエーを横断する、または交差するという意味だから、フェアウエー両側のラフだけに存在するバンカーはクロスバンカーではないはずだ。

実はこの種のクロスハザードはバンカーだけとは限らず、ウォターハザードやルール上のハザードではないが空堀、ヘビーラフ、土塁状のマウンド等、色々と試されてきた。 要はトップボールやランの多い球筋を、障害物を飛び越えるキャリーボールと区別するのが目的だったのだ。 フェアウエーとの交差角度も、人工的に作られた初期は直行していたが、右打ちのスライサーが多いためか、左手前から右奥に伸びるラインに設置される事が一般的だった。

しかし、この障害物は多くの未熟なプレーヤーがよく捕まるから彼らにはすこぶる不評で、結果的にフェアウエー内の障害物は撤去され、間の抜けたフェアウエーとラフに存在するクロスハザードの一部が残ってしまったようだ。

時代的にはクロスハザード全盛期が百年前だとすると第二次世界大戦前夜までの話です。 その後、二打目地点のラフのクロスバンカー(?)は、右側がスライサー、左側がフッカーを罰するために当初と逆の構成(右手前と左奥)が多くなってきた。

ここで良く考えて欲しいのだが、最初は誰もが入りそうなハザード構成なので克服するためには腕と度胸が必要だったのに、後には特定のミスショットを罰する目的に変質してきたのだ。 言い換えれば、ストラティジックやヒロイックに繋がるハザード構成がペナルタイプに退化してしまった訳で、五十年間で左打ちプレーヤーやフッカーが急増したとは思えないから、ゴルファーの審美眼の変化なのだろう。

設計者の立場で告白すれば、右ドックレッグより左ドッグレッグは設計し難いのです。

 さて、やっと『ハーハー』までたどり着いた。
ハーハー(Ha-ha)は空堀の一種に分類する事もできると思うが、ボーア戦争や第一次世界大戦当時、従軍したA・マッケンジー氏の唱えたカモフラージュ技法では塹壕としての役割が強調されている。 これは開放的な景観を維持しながらクロスハザードと同じ効果を持ち、目立たない道路にもなるし、視覚的にも無理のない高低差の解消方法だ。

もう一つ特筆できる点は、並行もしくはすれ違うホールの境界に利用すれば、開渠の簡易排水溝にもなり多雨地域のゴルフ環境では表面排水の助けになると思う。 ホール間を林でセパレートする義務(決めた人は高い樹木の存在しないスコットランドのリンクスコースに行った事がないのだろう)がある日本では無益な議論だが、打球事故の多くは樹木に遮られて見通しの利かないティーグラウンドから発射された球なのだ。

 近代的なゴルフコース設計は、進行方向に対して斜めに傾いた線上にハザードを配置する技法を追及してきたが、現代そして近未来には、より三次元的な障害物を利用する技法が確立されてゆくだろう。