株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2013年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第123回
 
経年変化には敏感でありたい
4月号はマスターズ関連か新人や新規事業の話題になる事が多いが、今年は経年変化を取り上げようと思う。
昨年暮れに起きた中央自動車道のトンネル事故を教訓にしたい。と、いう意図もあるが話はそれほど単純ではない。

 事故後の調査で設備の老朽化や点検更新作業の不備が指摘されているが、基本的に1トンを超えるコンクリート板をボルトの引き抜き強度に頼った方法で天井材にするのは間違いだったのだろう。
荷重から見ると、トンネルの天井が乗用車を吊り下げているのと同じだった訳で、地震や漏水の起こりやすい環境下での工法として最適とはいえない事は明らかだ。
開通から35年経ちその間に換気設備の潮流が変わったにも拘らず、安全を蔑ろにしてきた管理者の責任は重い。
ゴルフ場も使用年数など笹子トンネル以上の所も多い。
調整池ダムや歩経路を再点検するだけでなく、揚水ポンプやフェアウエーの陥没事故等に対する安全管理は決して怠ってはならない。

 とはいえ、お決まりの資金や人員不足を理由に後回しになるのが安全管理の宿命だ。
今回の提言は経年変化の本質を考えて、施策の優先順位をつけて欲しいからなのだ。
一般的に経年変化は老朽化や陳腐化と同義に扱われる事が多いが、趣向や流行の変化も大きな要因になりえる。
帰国して日本の農作物の品質の高さに日々驚嘆しているが、一方で品種改良も盛んだ。
例えばイチゴだが35年前を思い返して見ると小粒でとても酸っぱく、甘いコンデンスミルクをかけて食べていた。
現在でもイチゴは高価だが、驚異的に大粒になりそのまま食べる方が自然なほど甘い。
という事は、昔ながらのショートケーキはイチゴ以外の部分の酸味を再調整しないと味のバランスが崩れるので、生クリームにレモン汁を加えるようになったのだ。
灰汁の少ない牛蒡、瓜臭くないキュウリ、子供にも嫌われないニンジン等が開発され、そのつど調理方法や盛り付けに変化を与え続けたのだ。

 ゴルフコースでも芝の品種改良や土木工事の機械化によって、それ以上にプレーヤーの飛距離増大によって設計者の意図と違う方向に推移し、同時に管理者をも悩ませ続けているように感じる。
ボールやクラブの進化による変化は、飛距離よりもキャリーとランの割合変化の方がコースに対する影響が大きい。
アンジュレーションを無力化することに加え、グリーン周りのハザードの存在意味を変化させるからだ。
という事は、今後飛距離制限の目的でボールの初速規制等が実施されるにせよ、キャリーとランの割合はキャリー増大の方向に進むだろうから、結果としてコース全体のコンパクションは上がり続ける。
問題なのは生クリームにレモン汁を加えるのと違って、他との調和を取りながらコンパクションだけを高める方法が確立されていないことだ。
たぶんグリーンキーパー諸兄には嫌われると思うが、少量長時間散水と頻繁なローラー掛け、セミラフの拡張と床構造の近代化ぐらいだろう。
日本はグリーンの芝種だけが異なる環境でも許されるから、人工芝グリーンさえも可能性があるかもしれないのだ。

 設備の老朽化を刷新するにせよ、今は待機するにせよ、経緯や判断基準は明確にして記録すべきだし、現在の判断は未来永劫正しくはない。
後輩達に判断の余地を残し、彼らのその時点での決断にゆだねる事も、経年変化を見越した我々の責務だと思う。