株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2013年5月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第124回
 
日本発のアイデアに期待したい
 プレーヤー目線と管理者側の思いは、同一であるとは限らない。
理想的には、利用者の我侭な要求の先回りをして管理目標を立てる事と、与えられた気候条件と現状と予算を勘案して最適解を見つけ出す事、さらに経営者やプレーヤーの同意を取り付ける事が必要だ。
一方で、日々進歩する薬剤や管理技術に対する理解も求められ、図らずも管理者自身が種苗業者や商社に頼る悪循環に陥っているように思う。

 グリーンを例にプレーヤーと管理者の意識の違いを比べて見ると、グリーンエッジというかカラーにこぼれた打球はニアピンから排除されるから、プレーヤー側はカラーをグリーンとは思っていない。
ところが管理者側は、刈高が違うだけでグリーンと同じ芝だし、床は繋がっているはずだから、カラーを含めてグリーンと考えていると思う。
更に、モグラやミミズに留まらず雨水や異種芝の侵入を防ぐために高分子シートで結界を廻らす場合も、薬剤量算定の根拠となるグリーン面積も必ずカラー部分を加算する。
60cm幅の一皮でも面積比にすると数%も違うのだ。

 さて、グリーンの表層は芝種や速度を含めてプレーヤーの趣向を反映しても大した問題ではないが、地下の床構造や散水設備の管理はキーパーの職能に頼る他はない。
常緑グリーンの実現のために導入されたベントグリーン(この意味から小生には洋芝の2グリーンシステムは意図が判らない)は、高温多湿下で疲弊するが、設計者が関与できるのは床構造と給排水システムまでで、施肥や散水のタイミングは管理者任せだ。
これでは面倒を押し付けているようで気が引けるので、代わりに大雑把な床構造の歴史を振り返っておこう。

 USGA方式のグリーンは21世紀になって小改定があったが、基本的には1993年に定められた2種類の方式を受け継いでいる。つまり20年大きく変化してはいない。
それ以前の方式はグラベル・レイヤーとグリーン面の相似を規定してなかったり、ヘリボーンシステムに固執していたり、グリーンエッジ直下の仕様が不明瞭だったり、スマイルドレーンの効能がやっと認められたりで、発展途上の域を出ていなかった。
尤も、当時のUSGA方式でさえコストと施工側の理解不足からか、日本流の仕様変更がなされて造成された事はご存知の通りだと思う。

 殆どの日本のコースはバブル崩壊以前に開場し、その後にグリーンの大改造を経験していないとすれば、開場当時の施工が規格範囲内だったとしても最新版のUSGA方式から2周回遅れだ。
更に先輩キーパーが保水性とか肥料持ち等の理由でシルトや土を混ぜた場合には透水性が悪化しているだろうから、芝種の刷新は効果が少ない。
日々の管理を通して同一周回に戻るには、ホロータインを使った年数回の地道な更新作業しかなく、少なく見積もっても3年はかかると思う。

 日本は、寒くて暑くて雨が多く結構過酷な自然環境だが、逆に不足する物が少ない事が多様な生態系を育んでいる。
グリーンの芝やゴルフ場だけでなく、歴史も社会組織も人の心も、競合し切磋琢磨して変化を続けているのだ。
床土に多孔質無機物を混入する試みとか、預託金を利用した錬金術とか、ゴルフ界でも日本発のアイデアは沢山あり、欧米の模倣に甘んじる時期は過ぎたようだ。宙水の概念を進化させ新しい床構造を模索すべき時期だと感じる。