株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2013年6月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第125回
 
ハンディキャッパーとして考える事
 ご存知の通り、小生は脊髄小脳変性症という難病患者で、近年歩行困難になり介助してもらう事が多い。
左足の筋力が落ちてきて、必然的に右手で杖を突くから。左肘を支えてもらうのだが、改めて思い返すと、沢山の人々に介助してもらった。
海外にいる間は人種も性別も年齢も様々だし、帰国してからも職種や場所など色々だ。
当然医療関係者が多いのだが、空港などでは100kgを優に越す青年に助けられたり、50kgもないと思われる中年女性の親切に甘えたり、少年が数人がかりで階段の下りを手伝ってくれた事もある。
ついでに階段の手すりは、必ず両側に付けるべきだと気がついた。左右どちらかに障害がある場合、片側手すりだと上りと下りで持ち代える事が困難からだ。

 さて、介助してもらう立場からは言い出し難いのだが、善意で介助するのだから熱意があるにも係わらず、支え方にも上手下手があり、それは介助者の年齢や体重や筋力とは無関係だと思う。
更に悪い事は、介助する側の能力を、されている側の小生が無意識に感じ取ってしまう事で、毎回申し訳ない気分になってしまうのだ。
ひょっとして、ゴルフコースの動植物も管理者の手際を知覚していたらどうしよう。

 経験して発見したことは、どんなに体力がある介助人でも、転びかけた状態の小生を支える事は不可能で、一緒に倒れてしまう事もあった。
一方、上手な人は、体重というか重心のふらつきを早い段階で感知する、若しくは予測して、少しの力で見事に修正する能力を持っているのだ。また、上手な介助は無理がなく、受ける側も安心して体を任せるから余計な緊張をせず、介助側も疲れないらしい。
この身障者介助をコース管理に置き換えて考えると、結構納得できて面白い。
まず、左足が不自由な場合は右側に杖を突くという原則は、当人も経験するまで知らなかったが、介護の常識らしい。
つまり、自然現象の因果関係とコースへの影響を理解する必要があるということだ。
次に排水が悪いとかグリーンが凸凹だとか、不具合は色々な形で現れるが、キーパーができる事は限られており、基本的な対処法は早期発見と予測の知見に掛かっている。
また、誠意を持って熱心に仕事をしているはずなのに、利用者や経営者が正当に評価するとは限らない。
しかも抜本的な改革は(原因が他人の病気だから)介助者つまり管理者がどうする事もできない場合が多いようだ。
管理者は損な役回りだと悲観しないでくださいネ。

 ところで、今回は身障者(ハンディキャッパー)の話だが、来年からゴルフのハンディキャップ制度が、USGAのスロープレーティングを取り入れた新方式に変わる。
日本のハンディキャップ制度は、近年特に適正化の努力が結実し始めていると思う。
小生が最初に英国に暮らした四半世紀前は、自分のハンデが三割ほど下駄を履いているような気がしたものだ。
これで距離の誤差が縮まり、枯れた芝での冬用レートが考慮されれば文句はない。

 学生ゴルファーだった時、合宿中上手な先輩とラウンドし、ハンディキャップのおかげで勝利できたと喜んだら、ハンデを貰いながら喜ぶな! と、怒られた経験がある。
スポーツのハンディキャップは障害者のハンディキャップと違い、公平な勝負をするためのルールだが、介助のような善意の概念が入る余地はないのだろうか?