株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2013年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第126回
 
ハザードレイアウトの理解者
 今冬は雪が多かったが、平年より10日も速く入梅し、梅雨明けは平年並み予想だ。しかも今夏は世界的に高温年らしく、高温多湿を絵に書いたような夏になるだろう。
雨量が多いという事は、雲が夜間の放射冷却を阻害するだろうから最低気温も下がり難く、寝苦しい夜が続くしベント芝にも過酷な環境だ。
梅雨がコースに与える影響については読者ごとに知見が違うだろうが、今回は刈り込み作業ができない合間の話題として、第4のハザードレイアウト開発の期待を述べよう。

 ゴルフ関係者の常識としてペナル、ストラティジック、ヒロイックという手法がある事はご存知だと思う。
簡単におさらいをしておくと、ミスショットを罰するのがペナル、ショットの前に何かを選択させるのがストラティジック、素晴らしいショットにご褒美を用意しておくのがヒロイックだと認識しておいても間違いではないと思う。
歴史的に見ると、最も古典的で自然発生的なペナルタイプのハザードレイアウトから、20世紀初頭のHSコルトやアリソン、Aマッケンジーら当時の知識階級が提唱したストラティジックがもてはやされる時代を経て、第2次大戦後の米国を舞台にしてヒロイックレイアウトが開花した。
当然英国側はリンクスコースにヒロイックの原型が在ったと主張しているが、ハザードレイアウト手法だけで判断すると米国側に軍配が挙がる。

 しかし、ヒロイックが産まれた背景には基準打数の変遷が大きく関係しているのだ。
マッチプレー時代には基準打数の概念はなかったが、ゴルファーはボギーと称する架空のキャラクターを使って、理想的なショットを連続した時のスコアーと自分のスコアーとを比較し始めた。(設計者はボギーベース時代と呼ぶ)
時代が下って飛距離が伸びると、距離が短めで平易なホールでは理想スコアーよりも良い打数が続出しそれをパーと呼んでいたが、時代進化に合わせた飛距離で査定しなおした結果、現代の我々が使っているパーベースの基準打数になったのだ。
つまり、平易なボギー5はパー4に、距離の短いボギー4のホールはパー3に変わり、全体でボギー74だったコースがパー71程度に基準打数が改められた、

 この過程で、距離の短いホールはボギーベースでの理想打数以上のスコアーが出やすい事から、原始的なヒロイックホールであったわけで、英国側の主張にも一理ある。
読者もよくご存知のレダン(スコットランドのノース・ベリックGC15番)は1895年にティーを前進させたので現在は190ヤードパー3だが、それ以前は266ヤードのボギー4だったのだ。
無論、このホールを有名にしているのは斜行したグリーンと深いバンカーとマウンド群だが、ボギー4のヒロイックホールがパー3として生まれ変わった好例だと思う。

 ところでハザードレイアウトは3/4世紀毎に発明されており、そろそろ新しい手法も開発されると期待できる。
が、どの時代でもその道の熟達者は保守的な戦略を立てるもので、ゴルフで言えば片手シングル以上の上級者はハザードを徹底的に回避するルートを選択するのが普通だ。
トラブルに陥る可能性を低く保つからこそ良いスコアーになるのだが、逆に言えばハザードレイアウトの妙など全く理解していないともいえる。
その意味では、腕もないのに無謀な攻め方をする素人こそハザードレイアウトの理解者なのだと思う。