株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2013年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第127回
 
膝が隠れるほどの粗暴なラフの原因
  我が家には電子レンジはおろか電気炊飯器もなく、アルミの炊飯釜とガスレンジで、毎回ご飯を炊いている。
せめて自宅では炊き立てのご飯を食べたいという欲求に加え、火力の強いIH方式でも現在の電気炊飯器はお米を煮ているだけで、炊くとは言い難い。と、思っている。
お米を美味しく炊く秘訣は色々意見があるだろうが、炊飯初期に少量のオネバを吹きこぼすと、雑味のない淡白な炊き上がりになるようだ。
この目的のために昔ながらの炊飯釜を使い続けているが、別に不便は感じていない。
ついでに言えば、毎回玄米を七分づき程度に精米しており、残った糠で糠漬けを作っている事は以前にも紹介した。
これは郵便事情の悪いロシアで覚えた方法で、日本から持ち込んだ無洗米とか白米が、想像以上に早く酸化変質するのに驚いて始めた方法だ。
どちらにしても、分づき米を淡白に炊くなど常識外れだが、我が家のご飯は巷でよく話題になる品種や産地や価格だけではないようだ。

 さて、炊飯過程で雑味を取る方法を紹介したが、一升瓶の酒もボトルワインも内容物が液体である限り、同じ原理で雑味を除くことができる。
無論、液面上部に浮いている不純物を排除するだけなので、全ての雑味という訳にはいかないが、封切りの一杯目と次の二杯目では明らかに味が違うことに驚かれると思う。
嘘だと思う諸兄は今度ウイスキー瓶を新規に開ける時に、1オンス(約30cc)を別のグラスに注いで試して欲しい。
きっと埃っぽい香りを嗅ぎわけることができるはずだ。

 液体に限らず粉末状の固体でも、変質の大きな原因は温度と湿度である事が多い。
腐敗過程を想像すると分りやすいのだが、温度がある程度高くなると飛躍的に反応速度が速くなるし、湿度が高くなると固体は溶解し、液体なら濃度変化や水分子との化学反応が促進されるのだ。
日本の夏は温度湿度共に高いから、肥料や薬剤の保管には充分な配慮が必要だし、実際に使用する場合も冷涼な欧米での施量を鵜呑みにせず、温度や湿度による割引係数を勘案すべきだと思う。
また、完璧な保管設備があったとしても、食品の賞味期間に相当する使用期限は存在するので確認して欲しい。

 ところでジ・オープンの季節だが、リンクスコースの膝が隠れるほどの粗暴なラフは管理費削減の主役である事をご存知だろうか?
管理面積の削減だけではなく、最も重要な側面は芝の種子の供給源になっている事だ。
自然植生に影響されるので、グリーンに限ればツアープロが要求する均一性確保には不向きだが、自然の摂理に沿ったインターシードなわけで、コース中で健全な芝の世代交代を促しているのだ。
ディボット跡を補修するための目砂に発芽直前の種子を混ぜる手法は、英国では20年ほど前から徐々に広まってきたように感じるが、日本では聞いたことがない。また、定期的にコース全体にインターシードする予算はない。
と言う事は、日本のコースにおいて樹木ではない草目の芝は、いくら多年草とはいっても極端に長寿の芝を使わない限り、活力が衰えてきても不思議ではないと思う。

 これが日本のフェアウエーで播種繁殖より栄養体繁殖の芝が好まれる理由で、行き届いた管理を前提にしたコースは、必然的にランナーによる節間伸張に頼らざるを得ず、ターフが飛び散ってプレーヤーによるディボット跡の処理が難しいのだと思う