株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2013年11月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第130回
 
バンカースペック
  大規模土地開発では30度以上の傾斜地は開発できない。 造成作業で重機が傾き危険なことが主たる要因だが、この角度は土や岩石を積み上げた時に崩れずに安定する安息角から来ており、その角度の一番緩い砂が30度程度なので安全率を見越してこの角度に設定されたらしい。  ゴルフは海岸縁のリンクスランドで発展したので砂丘地帯の地形を模すことが多いが、自然界は崩壊寸前の姿、言い換えれば安息角ぎりぎりの斜面で構成されている事が多く、現代的なゴルフで要求される穏やかな平面はアンジュレーションの谷間だけなのだ。 現実的にリンクスコースの雰囲気を醸し出せるのは、現在ではバンカーの顎しかない。 ところでバンカー顎の処理方法は次の6つだけだ。

ラフの一部と考えてフェアウエーより少し刈高を上げるか、ヘビーラフの一部と考えて芝を全く刈らずに残すか、もっとアクセントと付けたい時は土をそのまま露出させるか、低木群で縁取る方法もある。 他に日本では殆ど見ないが、リベッタリングと呼ばれる芝土をレンガのように積み上げる手法や、鉄道の枕木を使う場合もあるだろう。 因みに、垂直に並んだ枕木は打球が跳ね返って危険なので現代では使われなくなったが、45度以下の角度(球のスピンと反発係数の関係からもう少し欲しいが)なら問題はない。  これらの方法の後半2つはリンクスランド本来の安息角よりも急な勾配を人工的に作ろうと先人たちが開発した物だが、それにしても日本のバンカーの顎は良く言えば穏やか、悪く言えば画一的で稚拙なデザインだと思う。 林間コースで砂面が露出するのはどんな地勢の時か?とか平坦な地形が少し窪んで、そこを砂が覆っている現状を疑問に思わないのだろうか?

 さて15年前の学生時代、設計課題でバンカー・スペシフィケーション(スペック)が要求され、小生は断面詳細図を描いたのだが、欧州の同級生たちは皆、当該バンカーの意義や顎の高さとグリーンとの関係、更に前打地点からの見え方を中心に説明しており、自分の問題意識の低さに呆れた経験がある。 もう一つ断面詳細図の方も日本の大手ゼネコンが実際に竣工図として提出したものをウル覚えながら再現したのだが、教授の批判の的だった。 問題になったのは、砂の流忘を防ぐために設置した不織布で、確実に数年で目詰まり起こし交換が必要なのでメインテナンスコストが余分に掛かる。と、酷評された。 この種のフィルターは欧州では全く使われていないのだ。

 今から思えば、バンカー内の排水管は120mm程度だろうから、管が詰まらない程度の砂の流出は許容すべきで、不織布では排水管径に比べてフィルターのメッシュピッチが細か過ぎたのだ。 網戸程度の隙間が流忘と排水のバランスが良いと思う。  更に、欧州に比べて二倍も雨が降る気候を考えると、バンカー全周にも100mm程度の有孔管を敷設すべきで、そうすれば周囲から流れ込む水でバンカー内に川が流れる事態も避けられるはずだ。

 最後に自然界は安息角以前に雨や風によって地面が削られた状態になっているという摂理を噛み締めて欲しい。 つまり、造山活動でもない限り下から凸(盛り上がるような地勢)はなく、殆どが下から見れば凹(削り取られたような地勢)になっている。 現代のコース設計家達の造形が嘘臭く見えるのは、自然に対する観察眼の乏しさに起因するものだろうと思う。