株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2014年3月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第134回
 
イーリングゴルフ倶楽部
 今回は本誌の先月号に載っていたイーリングゴルフクラブを話題にしたい。 記事ではカタビラを2mmに刈った高速グリーンは持続可能か否かがトピックだったが、英国のポー・アニュアというかメドーグラス類は日本で見られるスズメノカタビラとは少し違う気がする。 一五年前、小生がBIGCAの卒業制作でメドーグラスをグリーンに使う事を提案したら、教授陣から総スカンを食ったことを懐かしく思い出す。 当時小生は8km南にある別のクラブに所属していたので、このコースを訪問したことはないが、現代ではWebサイト(カタカナで検索しても見つかる)でグリーンの速さを体感できるので是非ご覧あれ。 またこの機会に英国のゴルフ場のシステムや経営状態等も再確認して比較してみよう。

 このコースは川沿いの平坦な敷地に改造を繰り返しながら6200ヤード、パー70の箱庭を押し込んだもので、百年以上前にH.S.コルトが設計したらしいが現在のレイアウトには疑問符がつく。 ロンドンの中心ピカデリー・サーカスから車で三十分ほど、東京でいうと板橋区か練馬区辺りにある庶民的なゴルフ場でハウスキャディーはおらず、冬場に轍ができるためだろうが乗用カートはおろか手押しカートさえも禁止だ。  倶楽部の経営環境の手掛かりは会員数と会費だが、英国のプライベート倶楽部の一般解として会員数は900名ほど、イーリングゴルフクラブでは正会員が30万円、平日会員で21万円ほどの年会費を払えばプレー毎のグリーンフィーはいらない。因みに入会金は年会費の二年分が相場だ。 それでも年会費相場は十年間で1.5倍になった印象だ。

一方、冬料金だがメンバー同伴でプレーする人がメンバーズゲストで三千円ほど、ビジターやソサエティーが四千円(英国ではプライベート倶楽部の個人会員をゴルファーと呼ぶから、所属クラブ発行のHC証明書等が必要かもしれない)でプレーできるが、基本的に土日のコースは倶楽部会員専用であることが多い。 他にハウスレビーと呼ばれるクラブ内の支払い専用プリペイドカードや、系列コース同士の割引チケット等もあるし、結婚式の披露宴や還暦のお祝いもクラブハウスで行うなど英国らしい行事もある。

 ところで近年は英国でもゴルフ離れが進み、イーリングゴルフクラブに限らず経営が苦しい倶楽部が多いと聞く。 その打開策としてこの倶楽部では会員種別を拡充し、ジュニアや若者、35歳までの成人を細かく分けて年会費を減額しているのだ。因みに22歳の大卒の新社会人は7万円弱の年会費だから募集枠はすぐ埋まり、メンバーの若返りに寄与しているはずだ。  さてイーリングゴルフクラブを例にして、普通の英国のプライベートクラブの現状をお伝えしたが、大都市圏の中にあり、百年以上の歴史があるゴルフ場でも経営は苦しく、若年層を取り込むために多大な経営努力をしている。 更に、グリーンキーピングでも前衛的な管理手法に挑戦しなければならないほど切羽詰っているのだ。 一方世界を見渡すと、ゴルフ場数で圧倒的な米国の次は、三千ほどの英国で、日本は世界第三位のゴルフ大国だ。 その日本のゴルフ場経営や高コストの管理体制を疑問に思うのは小生だけだろうか?  グリーンキーパーや経営者にとって、近隣ゴルフ場との競合が気になるのは無理からぬことだが、本当のコンペティターは情報通のゴルファーの意識なのだ。