株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2014年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第138回
 
芝生を農作物と考えたら
 今回は趣向を変えて、色々な角度から植物を考えよう。
 新大陸を発見した大航海時代、探検家達は現地で珍しい植物を集めたが、都合よく種が手に入るはずもなく、植物をそのままガラス瓶に詰めて持ち帰ろうとした。 この場合、植物自身の呼吸による二酸化炭素排出量が光合成の要求量にマッチする事と、ガラス瓶内での水分の循環がバランスする事が重要で、狭い船倉での保管場所に苦労していただろう。 この方法に適した植物はシダ類だったそうだが、数年に及ぶ長い冒険旅行の末、新大陸から欧州に運ばれたのだ。 ガラス瓶に帆船模型が入った置物は当時の記憶だし、後世に建設された巨大なガラス張りの温室は、珍しい新植物を維持管理する方法の建築的な回答だったように思う。 数世紀も前の先達の知恵と野望に驚いてしまうが、その後の交易による富を考えると、当時の彼らも種の保存に必死だったに違いない。

 さて、現代に話を戻そう。
一般的に緑色はエコでクリーンなイメージ色として使われている。が、実際は可視光線スペクトルの中間に位置する緑の波長を、植物はまったく利用していない。逆に言えば、植物が太陽光の中から緑色だけを選択的に反射するか透過するので、人間の目には緑色に見えているのだ。 つまり我々は、植物がわざわざ廃棄した物を取り上げて、失われつつある自然の象徴として祭り上げているのだ。 このようなボタンの掛違いは色々なところで起きる。 再生可能エネルギーという文言も、風や太陽光がリサイクルできるのではなくて、絶えず資源が補充されて枯渇しないエネルギーという意味で使っているのだそうだ。

 ところが石炭でも石油でも使い始めた当初は、そのエネルギー資源が枯渇することなど人類は考えなかったと思う。 問題になったのは価格の高騰に加え、石炭は粉塵(スモッグ)、石油は硫黄や温暖化ガス、原子力は放射能汚染がその時代の技術では巧く克服できなかったからだと思う。 つまり、自然エネルギーを使えば全てが旨く行くわけでは決してなく、その都度問題を解決してゆくしかないのだ。 光合成の太陽エネルギー利用効率は、最適な環境でも5%程度であり、平均すると1%未満だとされている。 同じ太陽エネルギーを使う太陽光発電の変換効率が15%程度、太陽熱温水器で80%以上と言われているが、いつも太陽が出ているわけではないので、変換エネルギーの保存や備蓄に配慮が必要だ。

 最後にゴルフ場の芝を農作物として見た場合の話。 同じ場所に数十年も連作され、積極的に耕さない作物は、連作障害が心配される。 一般的に芝の連作障害は起こりにくいといわれているが、芝の貼り替え直後の元気な姿を観察するにつけ、疑ってみる価値はあると思う。 農作物では輪作や休耕、天地返しや消毒が推奨されているが、同時にナスや牛蒡は5年、トマトやサトイモで3年、枝豆やイチゴは2年の間隔を空けての作付けも推奨されているのだ。

 一方、連作が有利に働く場合もあって、他感作用(アレロパシー)と呼ばれる周囲の植物の生長を阻害(促進)する物質の蓄積には効果的だ。 セイタカアワダチソウや赤松や有名だが、暖地系芝にも雑草抑制アレロパシーがあるとの報告もある。 フェアリーリングの菌糸が出すアレロパシーで、中央の芝の活性が上がるのを不思議に思った読者もいるだろう。