株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2014年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第139回
 
気象通報を頼りに気図を書く楽しさ
老人には暑さが応える。
先日外国の友人に向かって、海洋性気候の日本は八月が一年中で最も気温が高く、湿度も高いので寝苦しいという話をしていたら「でも君は日本で生まれ育ったのだろう?」と、一本取られてしまった。 何度もお伝えしているが、欧州の夏は乾燥し、八月末には秋風が吹き始めるのだ。 というわけで、今回は気象予報の話題です。

 日々の天気予報や地震予知で批判される事の多い気象庁だが、その前身は明治維新後まもなく気象観測を開始し、現在は年間予算だけで600億近く、その六割が人件費だ。 ただ自然科学の技術者集団らしく、自分達が出した予報についての精度検証もしており、正直に公開している。 これを大雑把に纏めれば、四半世紀つまり25年かけて、降水の有無の的中率が八割から八割五分に上がり、最高気温の予想誤差が2.0度から1.5度に下がった程度だ。 つまり、膨大な予算を使い、日本の英知を結集した組織でも、確度の高い未来予測は難しいということなのだ。 人為的な操作の入らない自然科学の分野でさえこの程度なのだから、政治経済の予測など推して知るべしで、何が起きても不思議ではない。

 では、どのような対処方法があるのだろうか? 庶民の自己防衛策はマスコミが垂れ流す情報を鵜呑みにしない事と、基本的な原理程度は理解しておく事が必要だ。 できれば如何なる時でも慌てない、もしくは挫けないフテブテシサもあればと思う。 そこで、素人(中学生)レベルだと批判されるのを覚悟の上で、昔話を披露しよう。 今から半世紀近くも前だが、登山好きの中学生だった小生達は、気象通報を頼りに自分で天気図を描いていた。 具体的にはNHKラジオ第二放送から流れてくる、日本を中心としたアジアの五十数箇所の観測点毎の、天候や風向きと風力、気圧や気温を専用の天気図用紙に速記するのだ。 放送(20分間)後に低気圧の位置や風速を勘案しながら等圧線を描き、天気図を完成させるのだが、友人同士で突き合わせてみると笑ってしまうほどマチマチで、当然、明日の山行の天気予報もバラバラだった事を思い出す。 因みに、日に三回あった気象通報も、今年四月から午後四時の一回に削減され、明朝の予報が難しくなったようだ。

 さて当時は、テレビで気象予報士のお嬢さんが丁寧に解説してくれるような時代ではなかったから、欲しい情報は自分で組み合わせる他なかったのだが、逆に色々な基礎知識も学べたように思う。 北半球ではコリオリの力により、高気圧は時計回り、低気圧は逆に渦を巻くから、風は等圧線に対して30度程の角度で吹く性質がある。 これは、地勢図の等高線に直角に水が流れるのと違って不思議な現象に見えるが、この性質を頼りに等圧線を描くし、逆に観測点以外の場所でも等圧線の傾きさえ判れば風向も見当がつけられるのだ。 これはゴルフ場でも有益だ。

 他にも気象通報の放送時間は授業中より集中していたし、友人達と比べる事で様々な見解がある事も体感できた。 何よりも、無機質なデーターでも加工すれば自然の摂理に近づける。言い換えれば自分の力でも真理を手繰り寄せることができるかもしれないという誘惑が、我々中学生を熱狂させたのだと思う。  自然を相手にする若い芝草管理者の諸君には、自分で見つけたゾクゾクするような誘惑を経験してもらいたい。と、老婆心ながら願う。