株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2014年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第140回
 
パインハーストNo.2 改造の真意とは
 まだまだ暑い日が続くが、今回はコース改造の話です。
今年の全米オープンが開催されたパインハーストNo.2は、ASGCA(米国ゴルフコース設計家協会)の初代理事長、ドナルド・ロスが心血をそそいで作り上げた、ほぼ唯一のコースとして知られていた。 が、数年前にビル・クーアとベン・クレンショーのテキサスコンビによって、コース面積の三割強に相当する芝を剥ぎ、1940〜60年頃の荒地に戻す改造が行われた。 この改造の目的は管理費の削減に加え、サスティナブルというか持続可能なコース形態を模索する事にあった。 ここ数年、米国の南西地域では干ばつが頻発し、今や全米の95%弱が水不足だそうだ。 先日カリフォルニアでも水道の無駄使いに毎回五万円の罰金を科す条例が施行された。 水資源が豊富な日本では想像しにくいが、近未来は世界中で水の争奪戦が起こる事が確実視されているのだ。

 ドナルド・ロスの故郷スコットランドのドーノック。今年のジ・オープンが開催されたリバプール。パインハーストのあるノースカロライナ。 改造設計者チームの出身地テキサス州オースチンの年間降水量を順に並べてみると554、781、1040、841mm。 因みに東京は1700mm程だ。

つまり、東京より暑いのに降水量が半分以下のテキサスで一般的な荒野を、穏やかな気候のノースカロライナに移設する事の是非はともかく、全米的に散水に対する警鐘を鳴らそうとするASGCAの強い意志は十分に感じられた。 この改造は懐古趣味とは全く次元の違う行為だと思う。 ところで、全米オープン開催時のコース全長は7565ヤードPar70だったから、日本人の好きなPar72に換算すると7781ヤードにもなる。 ところが今年の優勝スコアーは4日間で9アンダーだから平均67.75打で回った事になり、主催者が希望するイーブンパーの優勝スコアーに収めるためには、Par72換算で8040ヤードも必要なのだ。 この事態は小生の予想より10年以上も早いが、昨今のアスリートゴルファーの技術は本当に凄まじい。 余談だが、大会開催時のコースレートは78.1、スロープレートは147だったそうだ。 この数値からも現在のツアープロ達を戦わせるためにはコースレート80程は必要で、逆に言えば、彼らのハンディキャップを強いて算定すればプラス8程度となる筈だ。

 さて、日本ではこのような極端に難易度の高いコースは存在しないが、唯一の方法は27ホールズ以上あるゴルフ場の任意のホールを繋ぎ合わせて、無理やり18ホールズを作ってしまうことだろう。 無論、徒歩でホール間を移動できる方が望ましいが、ラウンド中に数回なら乗用カート等を利用しても良いと思う。

 最後はジ・オープンを開催したホイレークの改造の話。 2006年の前大回は新任グリーンキーパーを取材したが、今回は随分まともな状態で大会を迎えられたと思う。 それ以上にフェアウエーのライン出しや、刈高を吟味しており、またグリーン周りにハローを掘ったりして画一的にならぬよう工夫していた。 現実的にグリーンキーパーが日常業務として取り組める最善の努力をしたと思う。 シツコイようだが、全長7312ヤードPar72のコースでの優勝スコアーはロリー・マキロイの-17だから、もし主催者が全米オープンと同じようにイーブンパーでの優勝を望むならコースを7771ヤードにしなければならない。