株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2015年1月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第144回
 
ボギーからパーへ基準打数考
新年号は今まで何度も話題にしたのに、自分の所見を説明してこなかった基準打数についての話題だ。

 ゴルフ専門家の読者には常識だろうが、現代の我々が使っているパーの前段階として、ボギーを基準打数として使っていた(英国ではボギーベースと呼ぶ)時代があった。 というよりも、対戦相手だけと勝負するマッチプレーから、実際にはプレーしたこともない人とも競い合える基準打数という概念の導入は、正に画期的な出来事だった。

 ボギーというのは当時英国で流行っていたオバケ(オバQとか鬼太郎とかドラエモンとか鉄腕アトムと同じ、架空のキャラクター)の名前で、『人間業とは思えない程凄い』スコアーという意味だ。 ヒッコリーシャフトとラーバーコアのボールでは強打者でも200ヤードもキャリーできなかった時代の話である。 ボギーベースの時代、基準より一打少ないスコアーをパーと呼んだが、その呼称の語源については諸説ある。 一般的には、同等、同価、基準、標準という意味のParからと言われるが、日常会話では殆ど使わない言葉だ。 例えば分数を表現するとき、2/3はツー・パー・スリーと言わずにツー・サードだし、もっと複雑な13/256ならば数の間にオーバーを入れる。 時速を表すときは100km/hならパー・アワーと表現するが『時速100キロメートル』などと言わず普段は端折る。

 英国で入会していた倶楽部で古参メンバーから聞いた話では、パーの語源はウィスキーの銘柄にもなった『オールド・マン・パー』だという。 彼は1635年までの152年間生存した英国人なのだが、その長寿よりも80歳で結婚し、100歳を過ぎてから婚外子を設け、120歳で再婚したという絶倫ぶりが話題になった。 つまり、ボギーよりよっぽど現実離れしたスコアーにふさわしい呼称だったのだろう。 この議論に問題があるとすれば彼の名前のスペル(Parr)だが、パターの名器ピン・アンサーのスペルもAnserとwが抜けているから、目くじらを立てる程ではないだろう。

 何が言いたいかというと、生い立ちから考えても、基準打数というものは、達成した時にドヤ顔になる種類の数値目標だったのだ。 けっして高速道路の制限速度のように、義務化を目的とした数値ではなかった。

 実際のパーの語源は学術的に正しい用法の前者なのだろうが、ボギーベースからパーへの移行過程において、ジェントルマンゴルファーといえども妖怪に弄ばれるよりは、絶倫男(長寿?)になる方が気分良かったに違いない。

 さて、現代のツアー競技では優勝スコアーに対する主催者の見識が錯綜している。 四大メジャー大会の中で優勝スコアーをパー近辺に抑えたいと明言しているのは全米オープンだけだが、他の大会も一桁アンダーを目指している事は明らかだ。 日本では『プロ競技なのだから二桁アンダーが出て当然』という意見もあると聞くが、例えば、4アンダーの優勝者と24アンダーの優勝者では全くタイプが違い、ゴルフの正当な伝承者としては前者を選びたいと小生は考える。 同様に、その優勝者を生んだ競技会やコースの方が、格式高く感じてしまう。

 ツアープロの飛距離や、球を操る技術は年々進歩する。 グリーンコンディションはもちろん、コース全長も毎年10ヤード以上伸ばさないと時代進化にはついていけない。 今年は義務化したパーを叩いて不満げな姿より、パーを拾ってドヤ顔のプロを観たい。