株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2015年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第147回
 
既成概念打破の妙案に期待
今回はコース設計の話題にしたかったが、それより前に小生自身の反省が先だ。

 田舎の高校を卒業して都会に出た若者は誰でも、忙しくて華やかな都市文化に圧倒されると思う。個人差があると思うが小生の場合は勉学どころではなく、懸命にキャッチアップを試みた挙句、気が付けば5年以上経っていた。 思い直して建築を学び始めるが、欧州旅行をきっかけに日本の建築業界に疑問を感じ、コース設計に転身したのだ。 ゴルフ史や管理方法などのコラムを書いてはいるが、元々は設計時に恥を掻かない程度を目標にした独学だ。 現在でもそうだが、日本のゴルフ界は情緒文学的というか商業主義的で、アカデミックで信頼に足る資料に欠ける。 また飲み仲間だった大先輩の忠告に従い営業活動はせず、本連載がほぼ唯一の売名行為だが、均一で同調圧力の強い日本では別の手法が効果的だったと反省している。

 ゴルフを学ぶ事は、周辺の時代文化や技術変遷を追う旅でもあり、その中から自分の見解や理想が見つかる。 ただ、成功より失敗体験から学ぶことが多いのも事実で、30代で英国移住した当初など、日本式のゴルフしか知らず、英語力は中学生レベルなのでとても苦労した。

 ともあれコース設計の資格を得て帰国し、日本に合ったコースや倶楽部組織を模索する中で、旧知のゴルフ仲間が入会できないような先鋭的な理想を描いている自分に愕然とした。小生の友人の多くは『ゴルフの腕前さえ別にすれば素敵なゴルファー』だ。 蛇足だが、日本のゴルフがどれほど欧州と違うのか、例を挙げて説明してみよう。
日本におけるゴルファー人口の根拠であるレジャー白書は、公益財団法人の日本生産性本部が発表し、余暇の実態資料として活用されている。 が、そこで使われているゴルファーの定義は『年に複数回ゴルフ場に来場する者』で、欧州での定義とは異なる。 英国ではプライベート倶楽部の個人会員だし、大陸ではゴルファー試験にパスした者をゴルファーと呼んでいる。 因みに日本のゴルファー人口を英国式で換算しなおすと、2300コース×900(?)人で200万人程になると思う。 市場規模の推計が何倍も違うということは、ゴルフ用品販売や雑誌発行部数よりも本質的な、ボタンの掛け違いが起こっているようだ。 娯楽かスポーツか?という議論以前に、特段の経済的旨みがあれば別だが、狭い国土に見合ったゴルフ場数に収斂していくのが自然に思える。

 世界的なコース設計の潮流に目を移せば、ここ20年は胎動期というか過去の焼き直し的なデザインが目に付く。 ツアープロのような猛者と一般ゴルファーの技術が開きすぎて、両立できるコース開発に苦慮している事が原因だ。 小生の考えは、両者のレベルが前世紀のスタジアムコース・コンセプトでも対応できないほど開いてしまったなら、別々にするしかないと思う。 ただ既成概念を覆すような妙案が出てくる可能性を排除すべきではない。慣れ親しんだ考えが否定され、新たな価値が創造される現場は大変な軋轢があるだろうが、逆にこれほど痛快な場面はない。 そして、その動きは日本のゴルフ界から起きてほしい。 間違ってもサッカー監督のように、外人を連れてきてお茶を濁す事は止めてください。

 さて小生は今月で60歳になり、ゴルフ業界から足を洗うので、16年も続いた連載も今回が最後です。皆様、御愛読ありがとうございました。