株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2004年10月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第21回
 
ゴルフコースの芝環境とキーパーの関係
暑かった夏も終わり、やっと食欲の秋。という訳で、今回は最近始めた糠漬けの話しから始めよう。
ご存知のように糠漬けは、乳酸菌発酵した床の中に野菜を入れ、独特の風味と味を持たせた日本独特の食品である。
夏季休暇の間に実家に帰省した折に種を分けてもらい、嬉々として始めたのだが 中々難しく興味深いものである。

株分けをしてもらったばかりの床は菌の総量が少なく、雑菌も多数混入している
ため、まず乳酸菌が優勢になる環境を作る事が先決である。いったん乳酸菌
優勢になれば、水酸基濃度が下がり他の菌を駆逐してくれるはずだが、卵の殻に
付着しているサルモネラ菌などと違い乳酸菌はこちらの期待する速度では増え
くれないらしい。

色々と条件を変えても(有体に言えば失敗を繰り返して)未だにおいしい自家製
糠漬けが作れず、意固地になって朝晩2回糠床と格闘している。情報化社会
昨今だからと、インターネットを使って調べてみても細切れの情報が五月雨式
に出てくるばかりでおいしい糠漬けとその床の管理方法については全体像が
掴みきれないのだ。

元々実家の両親は市場に出回っている漬物が塩辛いため、自家製糠漬けに挑戦
し始めたらしいが、夏野菜の出回っている時期にしか漬けず、焼き糠ではなく
生糠を使って酵母の働きの強い床を作っていた。つまり彼らの使用目的に即した、
かなり特殊な糠床に調律していたらしい。ところが、都会の狭い鉄筋アパート
中には涼しい場所はなく年間を通して14℃に保たれているワイン庫を利用して
糠床を管理しようとした事がそもそもの間違いだったのだ。そのような涼冷な
環境では乳酸菌類の増殖は難しく酵素もうまく働かないが定温庫から出すと、
塩分濃度が足らないため、実家と違ったバランスに移行してしまう。

自分で作るようになると、飲食店など他人の作る糠付けの味も気になりだすし、
市売品よりも美味しくしたいという欲も出てくるから不思議だ結局フィズス
菌などを含めて20種類以上ある有用乳酸菌の、何をどれだけ培養しているかも
判らないまま、実家より多めの塩分と唐辛子が利いた刺激的な味が我が家
糠漬けになりつつある。

さて、ゴルフコースの芝環境とキーパーの関係を考えてみると、我が家の糠床と
さして変わらない局面が多い事に気付かれると思う。床の物理的な特性は、今年
改定されたUSGA方式(是非正確な理解を)が標準解であることは疑う余地がないが、
吟味するべき所は多い。実家の広島は、緯度から見てジョージア州オーガスタに
近く双方とも大陸の東側に位置するので気温や雨量も類似性が多くその地域
のUSGA方式を参考にできる可能性が高い逆に西海岸の雨の少ないカリフォルニア
やアリゾナのデーターは、興味深いが意味を持たないことが多いのだ。

どのキーパーも、どんな植物をどのような状態に育てるのか、包括的なコスト
バランスを考えながら現実的な解答を出しているのだとは思う。がそれが成り
行きの産物でなく明確な意思を持ったものであると言い切れるキーパーはどの
くらいいるだろうか?

何よりも大切な事は、どんな味付けにしたいのか明確なビジョンを持つ事だろう。
省力管理と硬さ、速さ、滑らかさのバランスを管理方針を含めたデーターにして
提示できなければ、結局は無い物ねだりになってしまうのだ。