株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2004年11月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第22回
 
本質を見極める事の大切さ
前回に引き続き、今回は芸術の秋。
という訳で、久しぶりに訪れた上野の美術館巡りの話から始めよう。
先日、<琳派>という日本画壇の一派と、それに影響されたクリムトなどまで含めた、装飾絵画と呼ばれるジャンルを集めた展覧会を見て、素直に楽しかった。
日本では比較的早くから、為政者とは別の富裕層向けの工芸文化が存在し、庶民
文化の底力は侮れない物がある。

江戸時代の浮世絵がパリに渡り印象派の勃興を促した事等は有名な話だが
構図や表現対象の選び方に粋な配慮が感じられ現代の水準からも素晴らしい
一方ュービズム以降の思想性を重んじた現代美術や宗教と関わりの深かっ
中世美術と違い近代美術は自然の模写を出発点にしておりその意味から言えば
さしずめゴルフコースはこのジャンルに位置すると思われる。

また江戸時代以降、西欧特に英国ではエリザベス一世以後の科学技術の発展は
目覚しく、その芸術を支える用具や機材が在ればこそ民衆文化が栄え始めたのだ。
一説には、チューブ入りの油絵具が開発されなければ画家は戸外の写生が出来ず、
アトリエに籠ってしまい、印象派は産まれてこなかったとも言われているのだ。

さてゴルフに話を戻すと今年は台風と秋の長雨でコース管理も大変だろと思う。
ゴルフコースは、都会人にとって自然を身近に感じる事のできる数少ない場所で
あり、印象派の画家でなくとも、自然現象とかけ離れた状況を見ると、違和感を
覚えるのは私だけではないと思う。

今年よく目に付いたのは、バンカー内に水が溜まってしまう現象ではあるまいか。
砂浜に水溜りができることなど考えて見るまでもなく自然界には在り得ない妙な
現象で、リンクスコースを模範とする大多数のコースでは、早急に解決すべき
問題である。

西欧のコースの場合雨量が少ないため(正確には豪雨の回数が少ない)もあ
バンカーの断面構造は100mmほどの有孔配水管バンカー毎に1本敷設する
簡便な方法が一般的だが、雨の多い日本では全く別の断面構造が必要なことは
明らかである。配管手法に関してはバンカーの周囲から雨水流れ込んでも
バンカー内に水跡ができない方法が存在し、コストと見合う場所には採用すべき
だと思うが、問題はもっと根本的な所にあるようだ。

さらに、管理予算削減の悪しき手法として洗浄が不十分な砂を使う傾向があり、
シルト分が砂を固結させ、不十分な日常管理が、それを助長させているようだ。
これは設計ノウハウの一部なので余り公表したくなかったのだが欧州の内陸型
のコースではバンカー砂の流亡防止のために日本では標準的に施工されている
不繊布を、全く使わない。

理由は、初期コストの問題もあるが数年以内に必ず起きる不繊布の目詰まり
でありその交換のための膨大な労力を嫌ってのことであるグリーンの床構造
と同じく砂の選定や自然の摂理に沿った配置(粒径も含めて)と正しい日常管理
を行えば、低コストで長持ちする排水構造は維持できるのだ。現にローマ時代
(2千年前)の土管を転用して立派に機能しているバンカーも英国内に存在し、
大切にされている。日本での不繊布交換の事例は聞いたことが無くバンカーは
開場以来砂の補充だけでお茶を濁されてきたようだ。

この機会に目先の効率ばかり追わず、本質を見極める事の大切さを再確認したい。