IPとは、カタカナ英語にするとインタークロスセクション・ポイントの略で、平面上の直線どうしが交差する点(交点)という意味である。
元々はゴルフとは直接関係のない測量用語で、土木工事量を見積もる必要から縦横断面図が要求され、基準となる直線を必要とした事が発端だ。
湾曲したフェアウエーの場合、グリーンとティーインググラウンドを直線で結ぶ
と不都合なため、セカンドショットを打ちそうな地点のフェアウエーセンターを
IPとし、縦断面図の変曲点として土木施工用の図面を描いたのがIPの始まりで
あろう。土木工事用の架空の地点であり、基本的にフェアウエーのセンターに
設定されるIPは、プレーヤーの理想的な攻め方を示している訳ではないのだが、
日本ではあたかも設計者が考えたルートのように扱われているらしい。
因みに欧米ではIPという表現は聞いた事が無く、設計家が考えたルート上で、
セカンドショットを打つのに理想的な場所の事を一般的にはランディングエリア
と呼んでいる。当たり前だが、理想的なポジションはフェアウエーセンターとは
限らず、一般的には左右にずれている事が多く、戦略型設計ではハザードの傍
などが選ばれる事もある。そんな事は設計理論を学ぶ時に最初に習う事項で、
改めてゴルフの専門家しか読まない誌面に登場させるのも面映いが、もっと大変
な問題が後に控えているので、ここはサラッと流すことにしよう。
近年の道具と技術の進歩から飛距離が伸び、相対的にゴルフコースが狭くなって
いるのだが、距離表示もそれに合わせて変えなければならないという問題である。
ほんの20年前までは、ティーインググラウンドからIPまでは245yが標準的だった。250yに設定しているコースなどそれこそ鼻高々に自慢していたように思う。ところ
がこの距離は、最近ではグランドシニアでも届く距離で、殆ど意味がなくなって
きた。
欧州では10年ほど前から、250m(約275y)を標準的なランディングエリアに選ぶのが
一般的になりつつあり、それに伴ってヤーデージの見直しが随時行われている。
問題はドッグレッグしたホールで、既存のランディングエリアより25y先に新しい
ランディングエリアを定めると、ティーインググラウンドからの狙う角度が変わり、
隣のホールのプレーラインと近づき過ぎてしまうため、安全性の見地からコース
の改造を余儀なくされる場合が多いのだ。
欧州ゴルフコース設計家協会ではプレーラインの右側(右打ちプレーヤーの
スライスサイド)で73m、左側で(同フックサイド)で65mの余裕を見込む事(細かい
規定もあるが割愛)が義務付けられており、違反すると設計家はプレーヤーと
倶楽部双方から法的に訴えられるのだ。
因みに、ホール間の高低差はそのままの数値を加減する。日本では楽観的な距離
表示が横行しているようだが、これはすこぶる危険な話だと思う。プレーヤーが
危険であると言う意味だけでなく、実際に打球事故が起きた場合コース側の責任
問題に発展し、多額の賠償金を請求されもおかしくない社会情勢だという意味だ。
プレー上の安全確認義務は全てプレーヤーにあるが、距離表示に偽りが合った
場合、道義的責任もゴルファーズ保険などの民事的な保障制度にも格差が生まれ
てくるだろう。現時点での距離における許容範囲は2%で、この程度なら数万円の
レーザー距離計を使った簡易測量でも充分な精度が得られるから、春までに是非
見直して欲しい。
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