一年中で一番寒い季節を迎え、雪でクローズするコースを除けば、殆どのコースが枯れた芝の上でプレーしているはずだ。毎度申し上げている事だが、この季節のラフは短く刈ったフェアウエーより球が浮いて打ちやすく、戦略的な意味での逆転現象が起きている。
鏡のようなグリーンを持とうが、ハザードを何処に置こうが、この状態は理不尽だ。
何故なら、距離は出ないが方向が正確なプレーヤーは、距離自慢のプレーヤーに
比べて明らかに不利だからである。欧米に比べて飛距離信仰の強い日本のゴルファー
の平均像は、この冬場のゴルフ環境が一役買っていると思う。確かに日本国内だ
けでゴルフをし、海外の情報など興味がない人ならば、皆が同じ条件で年間を通
じてプレーするのだから、不公平感はないかもしれない。が、逆に芝の枯れた季節
用のベストルートも研究されるべきだと思う。
さて、ゴルフの専門家である読者でさえも、欧米の厳寒季にゴルフ行脚に出かけた
経験のある人は多くないと思う。私自身も欧州ではスコットランド以外にはドイツ
ぐらいしか無いのだが、一昨年米国のロス・アンジェルス近辺を取材しながら不思
議に思った事があるので紹介しよう。
実は欧米のゴルフコースでは、グリーンがカチンカチンに凍っている事はおろか、
フェアウエーでさえも日本のコースほど凍らない。スコットランドも含め英国内は、
暖流の影響で比較的暖かいのだが、ドイツに至ってはそれこそ鼻毛が凍る程気温が
低く、明らかに日本より寒い。それでも友人の管理するグリーンは凍ってなかった
記憶があるので不思議だった。
先日来ホームコースの薄い芝と凍ったグリーンに手を焼きながら、突然閃いた事は
極単純なアイデアなのだが、多分自然の摂理だと思う。
それは『水分を含んでいない物は凍らない。』という事だ。
厳密に言えば、氷点下何十度という超低温では違うかもしれないが、日本のゴルフ
場ではめったに遭遇しない温度だろうし、そんな気候ではゴルフなどしている場合
ではない。思い返せば、厳寒期のドイツで友人と森を散歩した時は、霜柱を踏みし
めた記憶があるし、ジャガイモ畑を横切った時はカチンカチンに凍った畝に足を
掬われた記憶もある。つまり、表土の含水率が高い場所は凍るが、正しいUSGA方式
で地表近くの床砂の含水率を低くしたゴルフコースでは、凍りにくいのだ。水が
凍るときに周りの粒子を巻き込んで固結するため土全体として硬くなり、地表その
ものが凍ってしまったような印象を受けるが、実は凍っているのは水分だけなのだ。
シルクロードで有名な中国奥地のタクラマカン砂漠など、夜は氷点下三十度にもな
るそうだが、砂丘が凍りついて固くなった状態を見たことがあるだろうか?極端に
乾燥した場所では、寒くても砂は凍らないのだ。毎日凍ったり溶けたりする土壌は、砂の粒子が割れて細かいシルトになりやすく、さらに透水性を悪化させる原因にな
るし、粒形も崩れて固結しやすくなる。肥料や薬剤によって健全な芝環境を維持し
ていく事も大切だが、物性を考える事も忘れてはならないと感じた。
日本のコースではUSGAグリーンの理解が足らないため芝の根が浅く、結果的に地表
近くの根に水分を与える方法をとってきたようだ。この事は再三話題にしてきたつ
もりだが、ついに『凍らないグリーンは良いグリーン』という簡便な判定方法を図
らずも思いついたと言う訳だ。
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