株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第27回
 
植物はこうやって季節を感じ取る
梅の開花や桜前線など、春の芽吹きの時期だ。
今回は、植物がどうやって季節を感じるのか、考えてみようと思う。

一般的に植物の行動は気温との相関性において論じられることが多い。暖かくなったから芝が動き出したとか、寒さが続いて新芽が出ないとか、日常的に使っている言葉だと思う。しかし、植物は人間を含めた動物と違い、日々の寒暖に即座に反応できるほど、迅速な行動は取れないように思う。きっと長い準備をして、動物とは別の予知能力を備え、彼らの速度でも対応できるような方法があるに違いない。

テレビの天気予報を見ていると、スギ花粉が飛散し始める時期は、年初からの最高気温の合計が450度を超えたあたりらしく、その統計が当てはまるなら気温との関連がありそうだ。しかし、杉の木は人間界の正月など判る筈も無く、地上1.5mに設置された百葉箱で計られる日々の最高気温を、記憶して加算する能力が備わっているようにも思えない。つまり現象としてのスギ花粉の飛散し始める時期と、人間が勝手に集めたデーターと相関性が高い物を選んで指標にしているに過ぎないのだ。

人間の知覚器官は頭に集中していて、足の裏で匂いを感じることはできないし、手を差し伸べれば細かいものが見えてくる訳でもない。とすれば植物も、我々が通常眼にする地上部分だけで温度や湿度を感じていると早合点するのは間違いだと思う。大学時代の建築の担当教授は奥村昭雄さんで、彼はソーラーシステム等の開発者として夙に有名な方なのでが、その研究の中で面白いものがあるので紹介しよう。

深い土中の温度は年間を通して一定である事は、井戸水の温度などから判るのだが、実際は地下5m程の所から一定温度になるらしい。地上部分は春夏秋冬で温度が変動し、地下5mで一定だとすると、地上の温度変化が時間をかけて徐々に地中に伝わり、その影響がなくなる地点が地下5mであるとも言える。ということは、地下1mの地点は365日分の五分の一、つまり70日ほど過去にあった気温変化の影響を受けていることになる。これらを纏めてグラフ化してみると、地上の気温は低いのに、土中の温度が年平均温度より高くなる深さが存在し、もし植物が地上部分と地下部分に温度センサーを持っていれば、容易に季節を感じ取れる事になる。多くの樹木はこの方法によって季節を感じているらしく、寒さが続く季節でも土中との温度差によって成長スイッチが入り、着々と春に向けての準備をしているらしい。

ということは、異常気象の翌年はそのスイッチの入る時期がずれる可能性が高く、今からその予測を立てて管理準備をするのが、植物より高度な人間の英知だと思うのだが、その場になって慌てて対策を練ろうとするのも人間の性らしく、全く持って悩ましい。

植物の中でも、温度変化によってスイッチが入るものや、日照時間の差によってスイッチが入るもの、栄養状態に依存した成長をするものなどさまざまで、誰か植物に詳しい方が纏めてくれるのを待っているのだが、未だ全体像が掴めていないのが現状だ。毎年四月になると花が咲くという現実主義は、ともすれば病害虫の対処療法や過剰な予防措置に陥りやすい。原因が判れば予測もし易く、ずっと効率的な管理ができるのにと、思っているキーパーも多いことだろう。