株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年5月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第28回
 
フェアウエーの排水
本格的なゴルフシーズンを迎えようとするこの時期は、来るべき雨季に備えて準備する必要もあり、キーパーは心休まる暇がない。
今回はグリーンの排水設備から話を起こして、フェアウエーの排水まで、順を追って考えてみようと思う。

理想的な床の根本理念は、水分が砂の層に適度に溜まり、芝草の根は地中から水分補給できるが、地表部分は乾いた状態を維持できる床構造の具現化にある。そうすれば雨が降ってもプレー可能だし、コンパクションの高い、言い換えれば蜜実なターフ(芝土)にもなるからである。そのために是非とも理解して欲しいのがウォーターテーブル(水盤)の概念で、グリーンの床構造で言うと宙水の概念である事は何度も指摘してきた通りである。この考え方は現代ではグリーンに留まらずティーインググラウンドまで拡張されており、最近では海外の一流所などコースの難易度を上げるためエプロン部分まで含めて考える事が一般的になりつつある。この流れは数年後にはフェアウエーの管理方法にまで波及することが確実で、その際起こりそうな問題を予め考えておく必要がありそうだ。

一般に排水の基本計画は次の二点に集約できると思う。一つ目は水分をその場で処理できるシステムを確立する事。二つ目が水分の入出経路を最初から最後まで把握する事で、日本ではこの点が疎かにされている場合が多いようだ。

フェアウエーの排水方法などは一つ目の原則から、そのアンジュレーションが持つ勾配と芝種と刈り高によって排水間隔がある程度求まり、地表の勾配に対して八十度程(つまり殆ど直角)に排水管を敷設するのが普通だ。排水勾配は流量によるが0.5%から2%の間に定めて計画水域内で統一し、、他の水文学と同じく部分的に流速が変化しないようにする。流速が仮に二倍になると、そこを流れ得る粒子の直径は四倍、重さにして六十四倍の物体が流れる事が知られており、各排水管の流量と流速を揃えることが排水計画の重要な設計項目である。同一排水経路内で地形に沿わせた、つまり均一でない勾配で排水管を敷設すると、勾配の緩い所には管内を流れる砂や泥が堆積し、更に勾配を緩くする一方、勾配のきつい所ではベルヌーイの法則どおり、流れる水自身が有孔管の穴から土を吸出し、更に勾配をきつくする。結果として、数年後には排水管が機能しなくなる訳だ。さらに、日本では排水設計という専門職域が認知されておらず、造成時の大規模土木工事で思慮なく埋められた谷筋を流れる伏流水が、いたる所で地中から湧き出してくるといった不具合もある。

一方、ゴルフコースである以上プレーする上での約束事も忘れてはならないが、これも日本では甚だ心もとない。僅かにグリーンでは、スティンプメーターで10フィートを超えると3.5%以上の勾配ではボールが静止できないことが知られているが、エプロン部分やアプローチエリアでの刈り高と転がりの関係など、計測した例は聞いたことが無く、すべてキーパーの経験値に頼っているのが現状だ。最も困った例は、大量の降雨後フェアウエーに残る刈り屑が流紋を描いている事で、これはルール上の救済措置はないから、せっかくフェアウエーにボールを運んだプレーヤーに対して理不尽だと思う。ローカルルールで救済しようとする安直な考えはやめて、表面排水と勾配の関係を洗いなおして欲しいものだ。