株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年6月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第29回
 
芝刈りと芝刈り機について
今回はそろそろ忙しくなる芝刈りと、芝刈り機についての話題にしよう。
芝刈り機として現在使われているリールモアは、特許としては十九世紀の後半、ゴルフコースで普及したのは二十世紀初頭だと思われる。それまでは稲刈りなどに使う手鎌か、牧草地などで使う大鎌しかなかった訳だから、熟練した農夫でもフェアウエーを1インチの高さに刈り揃える事は大変だったに違いない。この大鎌は刃の長さが60cm以上もあり、柄の長さが2mほどで、腰に柄の端を当てて両腕で支え、体ごと回転させて使うもので、西洋の悪魔は首刈り鎌として必ず小脇に携えている物だ。

一方のリールモアは進行方向に直行して置かれた下刃に、回転する複数の湾曲した上刃を組み合わせて使うという発想が特許の対象で、継続的に上刃と下刃が接触し続けるから負荷が一定化され、回転する動力源に都合よい。現代では電気モーターやガソリンエンジンを動力源にして使われるが、元々は蒸気機関だったし、現代でも手押しが基本形で、車輪から伝わってきた力を使い、ギアを介して歩く速度より早くリール刃を回転させる事が要点だ。

現代のグリーンモアを例に、簡単な計算をしてみよう。モアの自走速度を毎時3.6kmとすると毎秒1m。リールモアのエンジンが毎分1800回転で回り、等倍のギア比でリールを回すと仮定すると毎秒当り30回転。7枚のリール刃だとすれば、下刃とリール刃は毎秒210回接触し、その都度芝を刈る。と言う事は、モアが1m進む間に210回芝を刈り、グリーンには約5mm間隔の斜めの刈筋ができる計算だ。実際はギア比などの影響で、刈筋の間隔は1cm程だろう。

ここで注意してもらいたいのは、グリーンモアで平滑に刈り込んだと思い込んでいるグリーンも、微視的に見れば5mmピッチの鋸状に刈られており、決して均一の刈高にはならない事で、ここにクロスカットの意味がある。さらに鋸状の不陸高さは、芝刈り間隔と芝の成長速度と刈り高のバランスで決まるから、芝が毎日1mm伸び、下刃を3.5mmにセットして毎朝刈ると仮定すると、鋸状断面は3.5mmから4.5mmとなり、平均して4mmの刈高になる。ところが、二日に一度の刈り込みでは3.5mmから5.5mmの平均で4.5mmとなり、下刃のセット高は同じなのに実際の刈高は変わってくる事になり、ここに朝晩刈るダブルカットの意味がある訳だ。つまり現在のグリーンを、より滑らかな転がりが得られるように張り込む方法は、刈り高を下げるという芝草にストレスをかける方法ばかりではなく、芝刈り回数を増やすことやモアの自走速度を遅くすることでも可能なのだ。

基本的にリールモアは、芝の成長点より上を繰り返し掠め取るように刈るのに適しており、深いラフに重負荷をかけて刈り込む用途は以前の鎌、現代のロータリーモアなどの回転鎌に、食いつきの良いギザギザの刃を付けた物に任せたほうが良い。逆に言えば柔らかい葉先だけを鋭利に切り取りたいリールモアは、カッターナイフのような細かい凹凸のある刃を付けるべきでなく、その用途に特化した滑らかな刃を付けるべきだと思う。先に述べたようにグリーンを毎日刈り込んでも、実際に刈られるのは筋状の一部分であり、残りの部分は数日に一度の割合で葉先を刈り揃えられるだけだから、切り口は鋭利な方が良いからだ。砂を噛んでも欠けにくい、ステンレス鋼も有望だろう。