株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第30回
 
日本のゴルフビジネスの将来像

妻が大半の家財道具を持って、先日家を出ていってしまった。
原因は、この際声を大にして言いたいのだが、小生の稼ぎが少ないとか素行不良が問題だったのではない。

彼女自身が転勤になり、ロシアに駐在する事になったのだ。その証拠にこの号が発行される時分には私も出発する予定で、今後数年間はモスクワ暮らしになると思う。という訳で今回が連載の最後かと思いきや、なかなかそうは問屋が卸さないらしい。

ロシアという国は日本人にとってだけでなく、欧州人からも米国人からも遠い国らしくベールに包まれているが、自由化が進み新たな富裕層も生まれつつあるらしい。ゴルフシーズンも五月下旬から十月上旬までと短いが存在し、同緯度のスウェーデンのゴルフ環境を考えると、国家プロジェクトとして取り組めば将来性がありそうだ。モスクワ近郊にはR.T.ジョーンズ設計のコースが一箇所存在するだけらしく、新たな需要も喚起できるだろう。

英国から帰国後二年半の間、欧州で学んだ事を梃子にして日本国内や隣国での仕事を望んできたのだが、主義として営業活動をしないためか、全く本業は暇で自分の才覚のなさに呆れてしまった。帰国前友人から「英国の設計手法をアジアにも広めて欲しい」とハッパを掛けられていたのにと思うと悔しいが、今やロシアも欧州の一員だし、欧州ゴルフコース設計家としての仕事が来ないとも限らないのだ。

冗談のような話はさておき、出国前にあと一回書くことができるはずだが、一足先に日本のゴルフビジネスの将来像を総括しておこう。まず倶楽部組織や会員権ビジネスだが、戦後六十年も続いた利殖目的の擬似メンバー制は早晩破綻するだろう。

替わってセミ・パブリックのような運営形態が大多数になるだろうが、メンバーとビジターの双方が納得し、しかも運営資金が捻出できる方法の模索に経営問題は移行してゆくに違いない。それが料金設定なのか、メンバー種別に応じた優遇措置なのか、差別化を図るための管理手法なのか、認知度UPを狙った宣伝なのかはゴルフ場の事情に因るだろう。ただ、本来の倶楽部組織や理事会が形骸化している場合、自浄作用は働かず外的要因によってのみ防御的な方策が取られる可能性が高い。

コースに目を移すと、プレーヤーの老齢化や安直な効率化によって乗用カートの使用が増えるだろうが、カート道路の敷設ルートや建設資材のノウハウは、現在レベルでは満足できるものではない。車社会の米国式が今のところ世界中で最良だと思えるので、近年国内シェアを伸ばしてきた外資系のゴルフ場の動向も気になるところだ。

巷を見渡してもコンビニエンスストアーやチェーン展開している店舗が目立ち、地域性を前面に打ち出した個性的なお店は減る傾向にあるが、量の効果を駆逐できる魅力を創出できない限り、資本主義の原則が待っている。我々が望んだ大衆化の結末だからと諦めるのは簡単だが、別の方策もあるはずだ。ただコースの質の向上と管理コスト削減を両立させる手法は、一般ゴルファーの意識改革も含め早急に取り組むべき課題で、そのためには関係者全員の現況認識や意識の統一が不可欠に思える。高々数十万円でできるコースの測量やタダで手に入る航空写真を利用して、説得力のある改善案をレポートできないような管理者は、過去の遺物として粛清されてゆくだろう。