株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第31回
 
ゴルフを見つめ直してみよう

昔から日本では、暑い夏の過ごし方は早起きと夕涼みに止めをさす。
どうして日本のゴルフ場が早朝と薄暮ゴルフに力を入れないか不思議だが、サラリーマンの勤務時間に会員側も従業員側も慣れきってしまい、ゴルフコースの本当に美しい時間帯を知らずに過ごしている。

自分の馴染んだ環境を変えたくないという小市民的な考え方も良く分かるが、このような場合多くは自助努力を怠り、外圧に対して脆弱な組織や規律になり易い。今回はしばらく日本を離れるにあたり、ゴルフ場経営や芝草管理から少し離れて、ゴルフを見つめ直してみよう。

ゴルフそのものを、レジャーとして捕らえるか、スポーツとしての側面を重視するかは随分前から議論されてきたが、競技方法がマッチプレーからストロークプレーに移行し始めた時分はプレーヤーが少なかった事もあって、完全にスポーツだったようだ。その後ボギーやパーといった基準打数と共に英国内でゴルフブームが起こり、必ずしもスポーツマンと呼べないような人々、アリソンによると「暇も若さも体力もない人達」もゴルフを楽しむようになった。

これらの社会的な動きを啓蒙し、積極的に推し進めたのが当時黎明期にあったコース設計家の仕事であったのだ。基準打数の変遷は、ボギーベースより一打少ない数が相応しいと思われるホールを勘案し、改めてパーという基準打数に直したのが現在の形で、現代のパーとボギーとの関係とは基本的に異なる。この場合重要なのは、基準打数の根本理念から考えて、その時代に得られる最高のショットを連続した場合に得られるスコアーを基準打数とすることである。だからこそハンディキャップの意義もあるのだし、コースの難易度を算定する必要もあるわけだ。

ところで、現在世界中でコースの難易度を算定する手法は大きく二つあり、一つ目が英国で行われているSSS(スタンダード・スクラッチ・スコアー)で、これはハンディキャップがゼロのスクラッチプレーヤーが当該コースをラウンドしたときのスコアーを小数点付で表した物で、当然ながらパーという基準打数とは関係がないものだ。日本も基本的にはこの方式だが算定基準が異なり、この数値を元に算定される各プレーヤーのハンディキャップも、欧米に較べて感覚的に二割程度甘いのが現状である。

もう一つは近年米国で広まってきたスロープレートと呼ばれる方法で、先の方法に加えアベレージゴルファーの感じる難易度を加味した数値で、直感的にスコアーとの相関関係が判り辛いという難点はあるものの、正当な歴史認識を持つ進歩的な手法である。

さて問題はここからで、今年のメジャートーナメントを見ていると優勝スコアーが片手で数えることのできるアンダーパーであることが多い。この事は見方を変えれば、現代におけるトーナメント用のコース難易度を左右するセッティング手法が、米国内で確立されてきたことを示す。優勝スコアーが二桁アンダーになるようなコースでの優勝者と、ぎりぎりパープレーしかできないようなコースでの優勝者とでは、プレーヤーに求められる資質が大きく違い、ゴルフの正当な継承者は後者である事は議論の余地がない。

全英オープンの優勝スコアーは、本稿の執筆時点では不明だがきっと二桁だろう。とすれば全英をきっかけに、R&A主導の飛距離規制の動きが活発化するに違いない。