株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第32回
 
モスクワの第一印象

ロシアに限った事ではないが、海外に移住してしばらくすると、決まって下痢が一週間ほど続く。
昔から言われてきた事だが、『水が変わる』という現象らしく、心も体も現地化が進むと自然に治るから不思議だ。

今回のレポートは、到着して2週間しか経っていないので、モスクワの第一印象でしかないが、その前に現代ロシアの概略も紹介しておこう。地理的には国土全体が北海道北端よりも更に北に位置し、首都モスクワは北緯55.75度で日本との時差は6時間(夏時間では5時間)だが、国内での時差が10時間もある。日本の45倍の国土に1億5千万の人口と聞けば、随分疎らに人が住んでいるような印象を持つが、首都モスクワとサンクト・ペテルスブルグの大都市圏に約1割が暮らし、文化的にも経済的にも地方との格差が大きいらしい。91年末の旧ソ連邦崩壊以後、混沌とした状況ながら確実に資本主義化が進み、極一部の新興富裕層が生まれる一方で、旧態然とした組織の既得権益も残り、社会全体の方向性が定まらない印象だ。

さて地理的、気候的なことで鮮烈な印象を持った事が二つあるので伝えておこう。始めは土地が見渡す限り平坦な事で、流れる河の高低差も1,000q流れて数mしかない。このような大陸的なランドスケープは想像外で、日本では全く味わえない風景だ。もう一つは、夏場は日射量が多く結構暑い事で、草木も動物も一斉に動き出し、人間も老若男女問わず服を脱ぐので困りものだ。

ゴルフ事情は未だ全体像を伝えるには心許ないので、今回は数日前に入会した自宅前のゴルフ倶楽部でお茶を濁すことにしよう。モスクワゴルフクラブ・イン・クラリツカヤというのが正式名称らしいが、日本同様英国式の倶楽部組織は未発達で、ビジターによるペイ&プレーを基本に法人会員や少数の富裕会員向けに企画された複合レジャー施設だ。コースやハウスは目下建設中で未だ12ホールしかできていないが、ハウス内に室内練習場やミニゴルフ設備があるばかりでなく、25mプールやテニスコート、サウナやトルコ風呂、ホテルなども併設される予定らしい。このような複合建造物がどの位の規模か想像し難いと思うが、悪名高い成金趣味の日本のクラブハウスの5倍以上の巨大さで、ヒューマンスケールをはるかに逸脱し、小型の城壁都市のような風貌だ。

未完成の状態で会員募集することの是非はともかく、個人会員は入会金も預託金もなく、年会費9万ルーブルを払えばラウンド毎の練習ボール代を含めて無料で施設を利用できる。因みに一ルーブルは約4円だから36万円相当。一方ビジターフィーは1,500ルーブル(約6,000円)なので、60回で元を取る計算になり、短い夏のことを考えると決して得策とは思えないが、発展途上国で特に重要視されるステータス料なのだろう。それを裏付けるように資産を含めた厳重な資格審査があるそうだが、持参した資料を見せた瞬間、審査除外の判を押されたのには驚いた。聞けばこの資料が雛形となり、今後の入会希望者の提出書類に変身するらしい。日本では役に立たなかった資格も使い方があるものだ。

勘のよい読者の方々は既にお気づきだと思うが、この倶楽部に入会したのはコース設計の仕事がありそうだと思ったからである。果して、ロシアに居住する唯一人のゴルフコース設計家になれるのだろうか?