株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年10月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第33回
 
現在のモスクワの社会状況

モスクワに来てつくづく考えさせられたのは、イデオロギーや社会体制が人々行動規範や考え方に、どれだけ影響を与えてきたか? また、その体制が崩壊した時、人々の心はどの位の期間で次の体制に馴染むものだろうか?という問題である。
ソ連邦が崩壊してから今年で15年になり、日本は戦後60年目だから、個人的な感覚で申し訳ないが、ロシアの現状は60年引く15年で45年前の日本の姿を思い描ければ良いと思う。

つまり、現在のロシアは1960年(昭和35年)当時の日本の社会状況と非常に類似性が高く、生活物資やインフラが急速に整い始め人々が希望を持てる社会になる一方、規制の盲点を突いたり非合法な商取引が横行したりして、目端が利き行動力のある若者が経済を牽引する役割を担いつつある。当然彼らは、既存の道徳観念や広い視野を持った高邁な理念など持ち合わせないから、自己中心かつ刹那的な判断をし、経済社会に新鮮で闊達な機運を送り込む反面、全体から見ると混沌に拍車を掛けているようにしか見えない。

ところで、私も含めて情報の限られた日本でのロシアのイメージは、『つい先日まで世界の超大国の片翼を担っていた国』というものだろうが、実際に来てみると石油や天然ガスなどの第一次産業に頼った発展途上国の域を出ず、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、チャイナ)とは良く言い当てたものだと、感心してしまった。

パリなどのヨーロッパの中心地域から見れば、モスクワなどは昔も今も片田舎で、お金の使い方を知らない野暮な連中の集まりだ。内気なくせに傲慢で見栄っ張り、外国製品を盲目的に有難がり、煽てられると善悪や合理性を度外視する。極東の何処かの国とそっくりだと言うつもりはないが、少なくとも我々もそんな時代が在ったような気がする。

一方でロシア人は我慢強い国民だと思われているが、それは誤解を恐れずに言えば無関心、無神経に成らざるを得なかった前体制の余韻だと思う。直接自分の身に降りかかってくること以外の事に首を突っ込むと、たちまちその筋に目をつけられ、悪くすると粛清の対象にされるから、見て見ぬ振りをする処世術が染み込んでしまったのだろう。

現在のこの国では、デジタル・デバイド(IT機器を使えない人を差別する風潮)ならぬジェネレーション・デバイド(年齢差別)が大きな社会問題になりつつある。旧体制下で職業に就いた経験を持つ世代は、上司から命令された事だけしかやらず、業務の改善提案や自己啓発とは無縁だから使い物にならない。というのが理由らしい。長年勤め上げてきて、今更人生をやり直すこともできない初老以上の世代は、ひたすら昔を懐かしみ、もう一度革命が起きると信じ始めているというのだ。

ここまで長々と某国の社会状況を述べてきたのには訳があり、日本のゴルフ業界関係者にも当てはまる所が多いように思ったからである。言うまでもないが、日本のバブル崩壊は1992年頃だから今年で13年になり、会員権やコースも出せば売れるという時代ではなくなった。バブル期を経験した業界関係者は、もう一度夢を見たいと願っているだろうが、ロシアの体制が再び元に戻ることがないように、日本のゴルフは『覆水盆に還らず』なのだ。私自身を含め身の振り方を考える時期なのかもしれない。