株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2005年11月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第34回
 
ロシアの週末別荘(ダーチャ)

あっという間に夏も終わり、ロシアは寒い季節を迎えようとしている。
長い冬の間何をして過ごそうかと考えて、予定表を作ろうと思い立ったが、調べるうちにロシアでは未だに来年の休日が決まっていないという、驚くべき事実に行き着いた。聞けばこのような重大事項は大統領が決定権を持っているらしく、直前になるまで変更される可能性があるという。それどころか、彼が決めた来期のロシア全体の国家支出は、今期の4割増なのだそうだ。日本では、国家予算削減のための準備段階の是非をめぐり総選挙まで行ったが、数年後を見通してもその圧縮効果は数パーセントもない。日本の政治体制を成熟した姿と見るかどうかは別にして、ロシアの桁違いな方策転換には、国民も正直について行けないのではないかと思う。

さて今回は、ロシア国民がこのような社会状況に対応するためか、旧体制下の時代から愛してきた週末別荘(ダーチャ)の話題です。別荘とはいっても大概は粗末な木造で、屋根付の車庫程度の大きさだから、贅沢というイメージとは程遠い。また、電気や水道と言ったライフラインが確保できていない場合も多く、物資の乏しい時代には食料の自給庫としての役割が大きかったようだ。今でも野菜などの過剰農薬を嫌う奥様方が、家庭菜園を営みながら原始的な物々交換をする場になっている。

元来ダーチャは不動産所有が禁止された旧体制下で、旧地主の既得権として認められてきた形態が発端で、新体制に移行する際に一挙に国民的な文化になった物らしい。都市の住宅も同様に、今までの社会保障を打ち切る代わりに無償で提供された物が大半だから、標準的に一戸当たり50uの2DKといえども、ロシア国民は住居費用負担とは無縁だったのだ。過去形で書いたのには訳があり、ソ連邦崩壊時に存在した家庭には住宅が放出されたが、その後両親の許から独立した世代には一切の恩典は無く、高額の住宅購入費用が捻出できない場合は、老夫婦がダーチャに本拠を移し、若夫婦に都会の住居を譲ると言う現象も一般化しつつある。

ゴルフ関係者から見たダーチャ文化の問題点は、週末毎に起きる交通渋滞(悪名高い東京都内の比ではない)と、週末の都市人口が極端に少なくなり、都市近郊の倶楽部組織が成り立たない事だろう。また、都市生活者が自然環境を身近に感じる場としてのゴルフコース役割は、ダーチャ文化を持つロシア人にとっては中途半端で、もっと先端技術を駆使したで即興的なレジャーを好むように思う。さらにゴルフ自体の認知度が極端に低い事や、ロシアでは金のかかるスポーツである事は現状として認識すべきだ。平均的なロシア国民の月収が3、400ドルと、日本に比べて数分の1しかないことを考え合わせると、あまり楽観的な予測は立てにくい。

しかし物は考えようで、週末になると人口が一気に増える訳だから、新たな需要が大都市周辺のダーチャ密集地域に芽生えつつある事は確かで、現在のテニスのような状況にならないとも限らない。ご存知だと思うが、マリア・シャラポア(シャラポーバとロシア人は発音する)などのロシアの若手女子テニス選手達が、その美貌と実力で世界的に持て囃されている。其れに肖って、我が子も有名プレーヤーにと目論んだ親達(父親が特に熱心だそうだ)のおかげで、児童を対象にしたテニススクールが俄に活況を呈しているのだ。