株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
月刊 ゴルフ場セミナー 2005年12月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第35回
 
グリーンの床構造

グリーンの床構造の話はこれまで度々話題にしてきたが、正しい知識に基づいた施工と管理をする限り、現在の所USGA方式が最も汎用性が高いようだ。

しかしこの方式が十全だという訳ではなく、幾つかの未解決な問題も依然抱えている。 一番はコストで、日本では1u当たり一万円、英国では22ポンド(材工共、約五千円)が相場で、コース造成費の中で大きなウエイトを占める。 また日本のような多雨国では、床砂の排水能力を超えた雨量注意値(30mm/時)以上では表面排水に頼るしかない。 三番目に、施工者や管理者が一度間違った作業をすると、復旧する事が事実上不可能で、特にシルト分が多い場合など致命的なダメージを受ける。 最後は微生物による腐敗や分解の研究は、始まったばかりで確たる成果が出ていない。 とはいえ他の方式、つまりカリフォルニア方式、パーウィック方式は事例が少なく、床砂の構成比など的確なデーターが集まる保証が無い。

世界中のゴルフコースでUSGA方式がどの位普及しているか正確な統計はないが、開発国の米国でさえ新設コースの半数以上がUSGA方式を採用せず、もっと原始的で安価な方式を選択しているという事実が、残された問題の大きさを象徴していると思う。

ロシアのゴルフ事情について言えば、唯一の18ホールズコースはR.T.ジョーンズJr.の設計だから、多分USGA方式なのだろうが、自宅前の造成中のコースなどは、腐葉土中で発芽させた物だから、良いグリーンになる訳がないと断言できると思っていた。

ところが最近、スティンプメーターで8.5ft程度の標準的なグリーンなら可能性があるような気がしてきた。 プランターで葉野菜を栽培するようになり、水遣り頻度と床土の固結について考えさせられたので紹介しよう。 今までグリーンには、毎日少量の水遣りをするより、間欠水遣りを推奨してきた。 理由は、床土中の気相を数日間隔で全面的に水と置換する事により、逆に乾燥する数日間は空気に置換される効果を狙ったものである。 毎日芝が吸収できるだけ水をやると浅根になるし、床が常に湿潤状態で酸欠状態に陥りやすいからである。 ところがグリーンと同じように、プランターの野菜に数日おきに水を遣っていると、数週間で土が固結し水を受け付けなくなってしまったのだ。 理由は、植物が生成する撥水性の物質もあると思うが、土に含まれるシルト分の性質に拠るところが多い。

問題は一度固結してしまった土は物理的に細かく砕かないと復旧しない事なのだ。 同じ土でできた『日干し煉瓦』を想像してもらうと分かり易いが、いったん日光で焼成された煉瓦を水に浸しておいても泥には戻らないのと同じように、乾いて固まってしまったシルトは容易には土に戻らないようだ。 つまり、シルト混じりの床土を管理する場合、浅根現象や浸透性に目を瞑っても、表土が『日干し煉瓦』にならないように毎日水遣りをする方が得策で、多くの日本のキーパーの管理方法はそれなりに意味があると思い直した。

要は床土の性質と水遣りと更新作業とのバランスによって解決する方法が重要で、シルト分が多ければ毎日の水遣りに加え、砂床に比べて頻繁な更新作業も必要なのだ。 逆に考えると労働コストがロシアのように安い場合、毎月の更新作業を厭わなければ、造成コストの安い表土直播工法でも、標準的な品質に仕上げる事も可能だろう。