株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2006年1月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第36回
 
ティーインググラウンドの管理

今年の初回は、初打ちよろしくティーインググラウンドの管理について考えてみたいと思う。
基本的にティーインググラウンドではフェアウエーに比べて、狭い面積の中に沢山のプレーヤーが滞留するから転圧に強く擦切れ対抗性が高い芝が必要だ。 更にPar3のホールでは頻繁にターフが削り取られるから、回復力の高い芝も必要だ。 また、グリーン比べて森林を切り開いた奥に設置されたままの場合も多いから、日照条件が劣悪な場合耐陰性も重要だし、覆い被さっている樹木から滴り落ちてくる樹液などの影響も無視できない。

一方刈高は、フェアウエーの芝高未満に維持する事が必要だが、グリーン周りのカラーやエプロン部分と同じモアを使い、刈高も揃える事も可能でそれが一番効率的だ。 プレーする立場からの要件は、堅固なスタンスがとれる事で、この意味からフカフカのマット状態や、細かい不陸は上級者から嫌われる。 量的に見れば、芝種をホール毎やティー毎には変えないだろうから、ティー面積はグリーン面積の八割程もある。

このような条件に適した芝種はあるのだろうか? 極端に環境適応性が高い品種がない現状では、数種類の芝を混播するのが現実的な解決方法なのだろうし、常緑環境が維持できればそれに越した事はない。

一般的にゾイシア族に限らず、ランナーを持つ芝種の方がターフを回復する速度が速いと思われがちだが、再考の余地はあると思う。 この常識は、周りの芝から裸地にランナーが素早く伸び、親芝の養分を利用して芽を出すから、最初に根を張ってそこからの養分で成長を始める品種に比べて早期にグラウンドカバーするに違いないという考えに基づいている。 しかし発芽直後の芝の生長は望外に素早く、逆にランナーも一週間では伸びきらないから、養生期間の配慮は必要だが、生え揃うまでの時間差は僅かで相互補完も可能だ。

この意味からティーインググラウンドには専用の目土箱を設置し、発芽直前の種子を混入した湿った目砂を用意してプレーヤーに周知する一方、芝刈り時毎に交換する位の配慮が必要だと思う。 大多数がドライバーを使うホールでは、プレーヤー数の数%のディボット跡を補修するだけだろうから、小スコップ十杯分で足り、大袈裟な箱を設置しなくても乗用カートの付属品の目土用プラスチック容器で充分だと思う。 当然古い砂はティーインググラウンドに撒くことになるので、管理作業は夜間散水の直前、つまり夕方が好ましい。

一般的に日本のコースでは、グリーン比べてティーインググラウンドに悪条件が重なり易く、実際の芝の状態もあまり良くない場合が多い。 何よりの救いは、倶楽部やプレーヤーの意識が低いため、今まではクレームが来なかった事だろうと思う。

グリーン比べて極端に品質の劣るティーの状況は、六十年代の米国でも同様であったらしいが、乗用機材で一挙に管理できる巨大な長方形のティーインググラウンドを開発して切り抜けたようだ。 この形式は日常管理効率が高いだけでなく、散水設備投資も造成コストも安くあがるが、打ち下ろしのホールでは使いにくいのが難点だ。 また、この時期以降グリーンの床構造を簡略化したティーインググラウンド専用の床構造も一般的になり始め、グリーン同様USGA方式と呼ばれている事はご存知だと思う。

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『以下の原稿を『ゴルフ場セミナー』編集部に送った所、編集長から幾つか質問がありました。 今回はご参考までにそのやり取りも掲載します。

入稿は遅れ、しかも不十分な説明で申し訳なく思っています。 ごめんなさい。

@ 一般的なゴルフコース内での各面積比を測ると、グリーンの面積を1とすればティーは0.6から0.8(良いコースほど大きい)程もあります。 つまり一般ゴルファーが思っているよりもずっと大きな面積なのです。 日照条件の特に悪いバックティーだけを耐陰性の高い洋芝にする例もあるようですが、すべて常緑環境に保ちたい物です。 ついでに欧州でのティーインググラウンドの造成費は、単位面積あたりグリーンの半分から3分の一ですから、合計するとグリーン造成に掛かったお金の3割から4割、管理費もその割合ですから相当な額です。 日本ではグリーンばかりに意識が行ってティーは等閑にされていますが、これは顔や髪をバッチリ決めたお嬢さんが、作業用の安全靴を履いたままでデートに来たようなもので、とても奇異に感じていました。

A 発芽直前の種の混じった目砂を交換(古い物は廃棄)するのに、ティーに撒く(蒔く)のが合理的です。 捨ててしまう種が勿体無いのでそれも発芽させてやろうとすると、夕方にティーの刈り込みをして、その直後に件の目砂を撒き、夜間の自動散水で養生させたらどうかという提案です。 一般的にグリーンの刈り込みは朝が多いようですが、残りの刈り込み時間はキーパーによってマチマチなので、忙しい朝に作業を集中させるのを避けたわけです。

B 近代的な所謂アメリカンタイプのコースの特徴の一つが、巨大なティーインググラウンドです。 R・T・Jones・シニアの時代に開発された物ですが、その利点は造成管理コストの削減と条件の均一化です。

先ず造成ではブルドーザーで一気に造れますし(一般的にティーは右打ちのプレーヤーから見ると、前側もしくは左足側に向かって2%程度の勾配をつけますが、巨大なティーではその施工も簡単です)複数のティーに比べてスプリンクラーの数が6割程に減ります。 (どんな小さなティーでもスプリンクラーヘッドは最低2個は必要ですが、巨大なティーの場合6個程度で充分です)管理面では乗用モアで一気にゼブラカットできますから、米国人好みの開放的な空間造形が簡単に具現化でき、管理作業効率も数倍になるそうです。
最後に均一化ですが、樹木の被さらない大きな平たい面を作るのですから、通風や日照条件がコントロールしやすく、施肥や薬剤散布も効率よくできます。

さてネガですが、一般のプレーヤーは何時も前の方に設置されたマークからプレーするわけですから、毎回下手糞と言われているようで気に入らないという意見が根強いのも事実です。 それとご質問の打ち下ろしの場合ですが、大きなティーというのは必然的に進行方向に向かって長いわけですから、ティーグラウンドの前端が視界の邪魔をして打ち下ろしの場合落下地点が見難くなります。 当然打つ以前にも見えない訳ですから結局ブラインドショットと同じ事になってしまいます。

この手の設計に慣れた米国人の設計者が日本で仕事をすると、必ずこの問題でミスをし、数年後に改修工事が行われるのが通例のようです。

ティーインググラウンドのUSGA方式ですが、全くグリーンの簡略版です。 グリーンと違い複雑なアンジュレーションはありませんから、排水管は主配水管1本(150mm程度)と副配水管(80mm程度)数本で構成され、それをカバーするようにレキ層(高級な仕様)及び小豆石層を施工した上に、ルートゾーンの混合砂を150mm程度載せた物です。 また給水に関してはパットの邪魔になる事がないので、ティーの真ん中にスプリンクラーヘッドを設置する事も可能です。 因みにグリーンの床はカップを切る必要があるため300mmのルートゾーンを持っていますが、芝の育成だけのことを考えれば特に300mmである必要はありません。 ティーの場合はもっと透水性の良い粗い砂を使えば水盤の位置を適切にコントロールすることが可能です。』