株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2006年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第39回
 
欧州の喫煙事情

先頃英国の下院で喫煙問題に決着がつき、歴史あるゴルフ倶楽部も変革を余儀なくされる事態になりそうなので、この機会に欧州の喫煙事情をレポートしておこう。
今回の決定は予想通り、範囲が従来の公共性を持った建物内から、不特定多数が集まる場所、更にプライベート倶楽部内まで拡げられた。 ただ、喫煙に関する常識が日本と異なり、戸外は規制の対象外だから、ゴルフコースでは今まで通り規制される事はなさそうだが、逆に受動喫煙に対しては頗る厳格だ。 現在でも喫煙に寛容なパブのような場所は非喫煙者にとっては働き辛く、不当に雇用機会を制限されているとの議論があった程なのだ。

来年の七月から施行される法案では、食事やアルコール飲料の提供の有無に関らず、全面禁煙が義務付けられる施設には、英国文化ともいえるパブ(パブリックスペースだから当然か)や社交クラブのようなプライベート倶楽部まで含まれ、テニスクラブやゴルフ倶楽部も該当するから、ホイレークでの全英オープンがスモーキングルームを使える最後の大会になるだろう。 歴史のある倶楽部では、元々食事をするダイニングルームで他人の迷惑も顧みず喫煙する輩などおらず、スモーキングジャケットを着用して優雅にタバコを燻らす為の喫煙室が設けられていたのだ。

大陸側に目を移すと、欧州連合が機能し始めてからというもの、文化が急速に画一化されつつあるのだが、喫煙に関しては未だ温度差がある。 イタリア、スペイン、フランスなどのラテン諸国は押しなべて喫煙に寛容だが、米国も含めアングロサクソンやゲルマンの国では喫煙とドラッグの境界が不明確なほど非合法行為スレスレと見なされる。 近年欧州連合に加盟した周辺国でも先進諸国への追随が必至で、数年後には英国下院の禁煙決議は欧州標準解になるに違いない。

ところでロシアは未だ喫煙天国で、公共施設内はさすがに禁煙だが、男女合わせた喫煙率が六割を超え、米国企業の紙巻タバコが一箱百五十円程で売られている。 日本では三百円、英国では同じ二十本入りが九百円もするから、欧州の喫煙者は高い税金を払った挙句に疎外されているようで同情する。

つい数十年前まではパイプや葉巻を銜えながらゴルフをしていたようで、その映像を現在でも目にするが、喫煙と癌との関連性が取沙汰され、健康被害という観点から嫌煙運動が広まっていった。 ということは、今後健康に少しでも悪影響があるという風評がたった習慣は、健康産業であるゴルフ場から排除されて行く運命にあり、前例から想像すると飲酒と肥満は真っ先に槍玉に上がるだろう。

実はロシア人男性は想像以上に短命で、現在でも平均寿命が六十歳に届かない!

『年金問題が起きず結構な事だ』などという悪い冗談はさておき、日本在住のロシア人は長寿を全うすることから考えると、その生活習慣に原因があることは明白だ。 過酷な冬の気候や先に述べた喫煙率の高さも影響しているのかもしれないが、決定的な要因は飲酒量にある。

健康増進の観点から、今後スポーツクラブでの喫煙と飲酒はご法度になるだろう。 午前中に半分のラウンドをし、汗臭い衣服とゴルフシューズのまま食堂に現れて、ビールを注文しながらタバコに火を点ける。 という見慣れた光景は、ひょっとしたら『日本人の類稀なる感性』が作り出した現代の極楽浄土だったのかもしれない。