株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2006年5月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第40回
 
ゴルフコース内のいろいろな色

雪に閉ざされていたモスクワもめっきり春めいて、モノトーンだった戸外にも色が戻ってきた。
とはいえ雪解けはぬかるんで汚れが一気に噴出し、街も車も元の色が判らない有様だ。 そこで今回はゴルフコース内の色の話からはじめよう。

常々感じていたが欧米のゴルフ場に比べ、日本のコースは色の種類が少なすぎる。 フェアウエーとラフの刈高差が少なくコントラストが付かないことに加え、日本人が濃い色のグリーンを好むせいか高麗芝のフェアウエーとの明度差も少なく、結果的に芝生面は似たような濃さの緑ばかりに覆われている。 更に、本来ならば刈高の低い順に明るい色であるべきなのに、冬場など全く逆の組み合わせになってしまうのだ。 確かに桜の季節や紅葉の時期の色彩は豊富だが、稚拙な植栽計画のおかげで色同士が響き合っているとはいえない。 芝生管理者も海外コースの粗暴なラフに驚くばかりでなく、自然な配色の妙に思いを馳せて貰いたいものだ。

さて四月といえばマスターズで、この記事が出る頃には結果も分っているだろう。 またもや距離が伸び7400ヤードを超えたが、七十年前のオリジナルは6700ヤードだから、年間10ヤード程度の割合で距離が伸びている計算だ。 この傾向は近年特に顕著で、早急に飛距離を20ヤード程度落とす必要があるだろう。

コース内の色に話を戻すと、この時期に合わせて咲く花を取り揃え、バンカーの白い砂も印象的だが、池の水を着色している事もご存知の通り。 マスターズウイーク以外の時期にオーガスタナショナルを訪れた読者は多くないと思うが、池の色は自然な茶緑で花も咲いていないから、巨大過ぎるバンカーばかりが目立ってバランスが悪いのだ。 マスターズはコースにとってカーニバルのような特別な期間であり、持てる全ての力をここに凝縮する。ということは、それ以外の長い期間はプレーヤーに犠牲を強いることになる訳で、メンバーシップの在り方自体が問題だろう。 競技会を予定しているコースや倶楽部は、是非とも慎重な気論を重ねてもらいたい。

さて、現代の自然科学を応用すれば、池の着色は人工的な添加物に頼らなくても可能で、特に火山活動の影響の大きな日本では実現性が高い。 例えば裏磐梯の五色沼のように、アロフェンや水草の特性を利用した、恒常的でオーガニックな方法もあるだろう。

最後に、カップ側壁の処理について疑問を持ったので話題にしよう。 私の知る限り、グリーンに穿ったホールの内側が白く着色されたのはマスターズトーナメントが最初だった。 これは白色のペンキで塗られており、アンジュレーション豊かなグリーンでもカップの所在が明らかで前衛的な手法だと感心する一方、グリーンキーパーの苦労を考えて、ため息が出たものだ。 テレビの影響は絶大で、近年日本のトーナメントでも同様の手法を見かけるのだが、此方はつめ入り学生服のカラーのように、プラスチックの薄板を丸めた物に見える。 旗竿を保持する器具は、グリーン面から少なくとも1インチ以上埋め込まれている事が望ましいから、基本理念から言えばホール側面は芝土が露出しているべきだろうが、この部分は乾いて風化しやすいし、全てのプレーヤーが同じ条件だから、日本文化独特の『改善』だとおもう。

只、固定資産税の調査で税務署員と話した事のある読者はご存知だと思うが、ペンキを塗った壁と壁紙を貼ったものでは査定額が違うのだ。