相変わらず談合事件が後を絶たない。
官民癒着の構造は洋の東西を問わず有史以来の伝統だし、有効な防御策が未発達なのは人類の限界かもしれないが、現代日本の発注者と受注者の関係は少し事情が違うので、この機会に説明しておこう。
昨今の談合の特異性は幾つかに分類できると思うが、ゴルフ業界との類比が容易な物から述べてみよう。
まず初めに、公共設備や建築に限らずゴルフコースも、スケッチや設計図を基に施工するのだが、工事に必要な総ての情報が設計図書の中に網羅されている訳ではない。
『設計図は楽譜と同じ類』である事を理解して欲しい。 音楽では同じ楽譜を使っても演奏者によって解釈や技術が違い、結果的に異なった曲調になる事をよく経験し、それは当然だと考えられている。
実は建設工事も同様で意外に施工者の裁量範囲が大きく、同じ設計でも出来栄えはマチマチになりやすく、施工管理が大きなウエイトを占める。
これは同じ設計図を使って違う業者が、隣の敷地に建物を建てる事例が無いため顕在化しなかっただけの話だ。
次に『設計図は完成予想図』であり、殆どの場合「どうやって作るか?」という建設過程の疑問には答えていない。
住宅建築現場で、内装が終わってから既成浴槽を入れようとしたら扉の寸法が足りず、いったん壁を壊して浴槽を搬入した後、改めて壁を補修した等はよく聞く話だ。
現実的に住宅の既成浴槽の交換は、事実上不可能に近い。 よって心ある施工者は、見積りの際に材料単価の積算をするだけでなく、工法や工程についても検討を加えており、見積り書作成の費用が嵩む。
工事代金一式などという見積りは論外としても、複雑な工事の場合は見積り費用が工事費の1%を超える事もある。
材料に加工を加えて成果品にする場合、無償サービスの見積りなどありえないのだ。 見積り書に計上していなくても、必ず支払い金額の中に実際に掛かった数倍の見積り経費が含まれているはずだ。
さらにどの業界でも発注者に提示する金額と実行予算、いわば二重帳簿のようなシステムは必ず在り、営業戦略と密接な関係を持っている。
これは必ずしも見積価格を押し上げる場合ばかりとは限らず、広告効果が期待できるなど営業戦略上必要な場合には赤字覚悟で受注しようとする場合もあるだろう。
私企業は限られた営業原資を有効に活用するため、、時として『損して得を取る』方策を採り、それは営利企業として当然の施策だからだ。
最後に、これが最も大きな要因だと思うが、官が行う競争入札は予定落札価格、つまりは官自身による見積りを経ている訳だから、予定価格と実際の落札価格の割合を云々するなら、営利企業同士の効率的な仕事分担?
を糾弾する前に、ずさんな予定価格策定過程を論じるべきだと思う。 公の仕事を受注するのは名誉な事だが、いつも少し出血サービスになるようにすれば、天下りした元役人の存在意義など無いから、穏やかに自然淘汰されると思う。
さらに、競争入札では殆どすべての場合、見積価格の安い者が受注しているのに、出来上がった物の評価はされることが無いという矛盾がある。
現状の入札制度は、設計者の現場管理や見積書を作る僅かな金額を惜しんで、最も大切な職能の尊厳や価値を蔑にしているように思えるのだ。
このような『角を矯めて牛を殺す』ような事例はお役所仕事だけではない。 狭いゴルフ界でも散見されるから何とかしたいのだ。 |