株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2006年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第42回
 
芝の新品種導入

以前から芝草全般の品質要件や、希求項目、管理基準などは述べてきたが、管理費の削減要求が一巡した昨今、芝の新品種導入が新たな客寄せパンダになりそうなので、その前に伝えておきたい事がある。
プレーヤーの立場から言って、英国と日本のコースで最も違うと感じる所は、ティーインググラウンドからの景色とグリーン周りなのだが、今までグリーン面や新しく開発された芝種については話題にしてこなかった。 これは設計ノウハウという面もあるが、芝草管理者もプレーヤーも芝種に関して異常なほど神経質なわりに、グリーンに何を求め、何処をベンチマークにしているのか分からなかったからである。

これらの原因は毎度の事だが海外のコースと直接比較する機会がない事だと思う。 スタッフの中で海外視察に行く人は役責上事務職になりやすいのは事実だが、支配人が海外に行ったから倶楽部運営が劇的に改善されたという話は聞いたことがない。 現場でコースに向き合っている管理者が欧米のコースを視察すると、少なくともコース管理が省力化される事は明らかだが、管理者自身も自ら研鑽を積もうとする意識が欠けていたのだろう。

さて今回問題にするのはグリーンの芝密度の問題で、誤解を恐れずに言えば、欧米に比べ日本のコースのグリーンは芝の密度が低く、芽数が少ないのか坊主頭のように頭髪の間から地肌が見えている。 感覚的には米国より欧州のグリーンの方が更に密度が高く、日本の管理者から見るとマット状に見えるほどなのだ。 高温多湿な環境など理由はあるだろうが、日本のグリーンは緑の絨毯と言うより畳敷きに近く、ゴルフ用の芝環境として最適とはいえない。 現代のグリーンに求められているのは、速さ、硬さ、滑らかさ、省力管理の四点だと思うが、スムースな球の転がりについては指標がないため等閑にされてきたようだ。

これらの点を踏まえ、グリーン用の芝種選定や管理の参考にして欲しい原則がある。 芝草に限らずどの植物にも当てはまる簡単な法則だが、『地表部から地中の根の先端までの長さを四等分すると、各部分の根の総量すなわち水分の摂取能力は、地表部に近いほうから順に四対三対二対一に近い。』と言う事だ。 と言う事は、根の浅い植物は地表近くに広く根を張る必要があり、隣との競合条件から疎らにしか生育できない。 つまり、根の深さが二倍になれば、単位面積あたりの芽数が現在の1.4倍にできる可能性がある訳で、またもや根を深く張らせる必然を強調する事になってしまった。 USGAタイプ床構造で健全な芝を生育するためには15cm以上の根が必要なのだ。 この事はウォーターテーブルの件だけでなく、床砂の透水係数から導き出せる根と透過水分の接触時間からも明らかで、例えば透水係数が毎時30cmの床では、毎分5mmの速度で水分は落ちてゆくから、根の深さが5cmと15cmでは、降下している水分と根の接触時間は10分対30分になる。 無論根の深部が水盤に届いていれば、降下途中の水分(効率が悪い)など当てにしなくても良いので理想的だが、なかなかそうも行かないのが日本の現状だろう。

今まではピッチマークなどの損傷からの回復力や、グラウンドカバー率の観点から、クリーピング系の芝種を選定してきたが、芝本来が持っている性質と管理者の理想の妥協点は、安易な芝種変更だけではなく、日々の管理方法に見出したいと切に願う。