株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2006年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第44回
 
PDCA(プラン・ドゥー・チェック。アクション)

夏本番を迎え、芝草ばかりでなく管理者も夏バテ気味だと思う。
今年の欧州も一昨年と同じ猛暑の予想で、バカンスを過ごす行楽地も南欧一辺倒から変化する兆しがあるという。
実際スペイン南部で砂漠化が進んできたとの報告もあり、地球規模の温暖化現象は確実に進行しつつあるようだ。

一方大陸性気候のモスクワでは、八月の声を聞くと何とはなしに秋の気配が感じられる気がするから不思議だ。
この季節、日中の最高気温は三十度を超えるが、夜半には十五度を下回り、一日の温度差がとても大きい。更に冬場の極寒期の最低気温は氷点下三十度を下回るから、年間の気温差は六十度を優に超え、海洋性気候で育った人間はビックリしてしまうのだ。

日本では未体験のこの現象は、六月後半の日照時間の長い時期は地温がグングン上昇し、八月になると直射日光による熱源が減るため温度上昇が緩やかになるという事らしい。 つまり海洋性気候の日本では海水の温度を上昇させるのに時間がかかるが、いったん温まった暖流は一月程時期をずらして日本列島を暖め続け、八月前半が最も暑い時期になっていた訳で、改めて気象条件の多様性に驚いている。 国内でも僅かな地理的条件の違いで、芝草が感じる微気候は劇的に変化するだろうから、隣のコースの管理手法を模倣するのは無意味なことだ。

さて、今回は気候条件の話の序に異常気象を含む危機管理と、PDCA(プラン・ドゥー・チェック。アクション)について話題にしよう。
度々話題にしたのでミミタコだろうが、十年に一回程度の渇水や冷夏は芝草管理者にとっての異常気象とは言えず、それを言い訳に使うのは自分の無策を公表する事だと思う。 私自身はもう少し進んだローリング・イヤーという考え方に基づいて指標を決めるが、少なくとも過去五年間に起きた環境変化への対応策を確立していないようでは、次に起こるであろう異常気象への備えにならず、後手後手の管理しかできないと思う。

一方、生産管理の現場で発展してきた「PDCAを回す」事は芝草管理にも誠に有効で、現代のグリーンキーパーにとっては必須項目だと思う。 が、この考え方にも致命的な欠陥があり、自然条件だけでなく経済状況や人員管理でも、不測の事態への対処は最初から盛り込まれてはいない。 つまり、プランの段階で想定した範囲外では役に立たず、この場合には危機管理マニュアルに頼る他はない。 また、管理手法がコンサバ方向へ振れ、管理責任者が企画した案件を、部下が全うする事だけで満足しがちである、という欠点も指摘されている。 だからこそ、広範囲で不確定要素の多い目標を掲げ、研鑽を積む必要があるわけだ。

PDCAの回し方や実際の展開方法は専門家に譲るが、ゴルフグリーンでの必要条件(つまりプラン)例を挙げると次のよな具合である。

(1)   年間を通して2.4mから2.7mの倶楽部の定めた任意の速さに調整可能で、全てのグリーンスピードが0.3m以内に収まる事。
     
(2)   夕立後すぐにプレーが再開できる排水性能を持ち、霧雨降雨中でも芝刈りが可能な状態を保つ事。
     
(3)   目立った不陸や裸地がなく、ピンポジションが七箇所以上取れる事。

他にも沢山思い付く筈だがPDCAを回す上では、床や芝種が何であろうと、管理予算が幾らであろうと区別せず、目標を決めて方策を練り、実行した結果を検証して、次の管理に反映させてゆくプロセスそのものが重要なのだ。