株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2006年11月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第46回
 
欧州ゴルフコース設計家協会会員の資格

未だ結論は出ていないが、欧州ゴルフコース設計家協会会員の資格を剥奪されかけているので報告しておこう。
欧州設計家協会の実働会員の資格は、正、準、学士で、(因みに現在、正会員48名、準会員22名、学士会員37名)小生は学校を卒業しただけの学士会員として、設計家協会の末席を汚している事は以前にもお伝えした。 学士会員が準会員に昇格するためには、協会に対する奉仕活動や論文等の条件もあるが、正会員の指導の下で九ホールズ以上の改修工事を担当する事が義務付けられている。 つまり、正会員の設計事務所の所員として働き、設計や工事管理の実務を経験しながら、正会員の薫陶を受ける事が要求されているのだ。 当然、欧州に居住していない小生等には不可能だが、元々が欧州設計家協会なのだし、欧州以外の国で学士会員が仕事を取ってきた場合、正会員とプロジェクト単位の雇用契約を結べばよい。という暗黙の了解事項があったので、小生も鷹揚に構えていた。

事の発端は昨年、設計家協会の内規が変更され、学士会員は卒業後二年以上四年以内に準会員への昇格申請をしなければ、設計家になる意志が無いと見なされ、欧州設計家協会に留まる事はできないようになった事である。 ここで「設計家を目指すなら学士会員に止まっていないで準会員に挑戦するべきだ」という建前論はともかく、何故このような内規が可決されたのか考えてみよう。

現在の設計家協会の前身である英国設計家協会は、二十世紀の終焉と共に大陸の既存設計者を取り込む形で、欧州設計家協会に移行した。 これは言葉を換えれば、英国国内でゴルフ場建設が減少し、設計する場所を失った英国の設計陣が、大陸側に活路を求めて進攻したとも言える。 大陸側の既存設計者から見ると、既得権は安堵された上、本家のお墨付きを得た訳だから当初は大喜びだった。 ところが、東欧や南欧のゴルフ発展途上国で仕事の取り合いが始まると、英国陣はゴルフの伝統や正統性を主張し、出資者との深い繋がりを強調する大陸側と水面下で反目しあうようになってしまった。 また大陸側の設計者達は、英国の伝統的な設計を学んだ訳ではないのに、成り行きで英国側に組み込まれ、米国式ゴルフとの狭間で矢面に立たされる事に不満を持ち始めた。

更にプロフェッショナル・ディプロマと称する設計家養成学校の卒業生は、今や多数を非英国人が占め(欧州周辺国ばかりか米国やカナダ、韓国、台湾にも後輩がいる)概して彼らは優秀だから、雇用条件の悪い英国内に留まることなく米国での仕事を望む風潮が生まれてしまった。

このままでは大陸側に「軒を貸して母屋を・・」という状況になりかねないし、苦労して教育した後進も米国に引き抜かれて、結局百年続いてきた英国の設計手法の伝承者が誰もいなくなってしまう。 という訳で、欧州設計家協会のある英国で学んだ直後に、米国に渡っで修行するという風潮に対する抑止力として、四年間という期間設定をしたらしい。

卒業後アジアに戻ってきた小生にとっては有難くない話だが、元々欧州で欧州のゴルフコースを設計する事など考えておらず(好き好んでアジア人に設計を依頼する酔狂な欧州人はいないだろうから)欧州設計家協会に残れるか否かという問題は、はっきり言ってどちらでも良い事だ。 重要なのは、英国で学んだ設計手法を発展させ、アジアに適した物にすることなのだ。