株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2006年12月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第47回
 
パーという基準打数

今まで当たり前の事として疑いを持ってこなかったが、18ホールを単位として、パーという基準打数を用い、72打を標準と考える時代は終わりを迎えようとしている。
最初の項目18ホールは、元々20とか22とかバラバラだった物をトム・モリスが統一した事はよく知られており、その際ウイスキーの携帯瓶の容量が重要な役割を果たしたこともご存知の通り。 また最初の全英オープン(ベルト)の開催地プレストウィックは当時12ホールしかなく、3日間で36ホールズのスコアーを競っていた訳だから、細長い海岸縁のリンクスランドを発想の基点とした、ゴーイングアウト・カミングイン、現代での九ホール毎のOUT・INも必然性があったとは言い切れない。 前世紀前半に活躍したコース設計家アリスター・マッケンジーでさえ、オーガスタ・ナショナルに本物の19番ホールを提案した程なのだ。

次のパーという基準単位は、ボギーベースからの代替単位であった事は以前から述べてきたが、現実的に考えて、これが今後バーディーベースに移行するとは考えにくい。 発展途上のスポーツならともかく、円熟期というか、他のスポーツやレジャーとの関連で弱含みの展開になりつつあるゴルフの場合、中核利用者に以前からのゴルフ愛好者を置く事が多く(新規客を取り込むための施策が十分とはいえないため)彼らの慣れ親しんだ単位を変えにくいのだ。

最後に残るのはパー72で、聖地セント・アンドリュースを規範として目標値化されたという説が一般的だが、当該コースはパー3が2ホール、パー5が2ホールと、残り14ホールがパー4なのだから、これまた説得力がない。

実際はスコットランドの旧態依然としたゴルフを刷新したいイングランド人が、未開の新大陸に渡って造ったオーガスタ等が、日本のパー72信仰の直接の雛形だと思う。 ところが、当のマッケンジーとボビー・ジョーンズには、「グリーン上にもハザードがあるべきだ」という重要な合意事項もあるのだが、その件は何故か忘れられている。 これは、グリーン中央にバンカーが在るという類の、幼稚な手法では断じてない。 グリーンを狙うショットでも、距離と傾斜を勘案する事を推奨し、その見返りとして広大でアンジュレーション豊かなグリーンを提供することで具現化された。 良いショットを放った者だけが、短く安易なパットを享受できるからだ。

速いグリーンによる難易度だけが強調されがちだが、大きくしかもうねったグリーンの本来の意味は、至近距離からのアプローチショットにおいて、目標を絞り込む必要性を説いているのだ。 これらは近代知略型戦略設計の要となる考え方だが、現在まで意図的に忘れられてきた結果として、基準打数の半分を占めるグリーン上の2打は手付かずのままだった。

言い換えれば、至近距離からのショットはピンに寄らなければ不満足で、2打でホールアウトする方が上級者では一般化している、という現状を追認する必要がある訳だ。 何処までが至近距離かという議論もあるが、職業ゴルファーでは100ヤードだと思うが、50歩譲ってもピンから50ヤードが適正値だろう。 つまり、ティーショットの仮想飛距離を旧来の250ヤード内外に留め置いたとしても、基準打数の算定根拠の距離は、50ヤード以下はPar2 50〜299ヤードがPar3 300〜519ヤードがPar4 520〜739ヤードをPar5とするのが近未来の適正基準だろう。