株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
月刊 ゴルフ場セミナー 2007年2月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第49回
 
ロシアのスーパーマーケット

子供の頃の冬といえば、コタツに入ってテレビを見ながらみかんを食べる。と言うのが定番だったような気がする。
ロシアのスーパーにも今や柑橘類はたくさん陳列され、オレンジやネーブル、伊予かんやザボンまで常時あり、旬や季節とは一切関係がないので我々には奇妙な光景だ。 これは生鮮食料品によく起きる現象で、どうせ輸入するのだったら一挙に南半球から空輸しても、その分付加価値がつけば市場経済上成り立つことを示している。 ロシアのように輸入品に対抗する競合品が産出できない場合、輸入量も多いからそれなりに市場原理も働き、価格も少し高いが安定するようで、庶民にも手が届く範囲である。

しかし此処は、何といっても林檎の国で、赤、黄、緑と色も形も多種多様、日本では見かけなくなくなった小さくて酸っぱい林檎の原種のような物まで、現役で頑張っているから、結構楽しめる。 毎日種類を変えて試していたら、最近は林檎を見ただけで味や鮮度が想像できるようになってしまった。

冬のこの時期、スーパーマーケットの野菜果物売り場を見渡すと、ジャガイモ、人参、玉ねぎの三種の神器に加え、ビーツと呼ばれるボルシチに使う砂糖大根が片隅に積み上げられている以外は輸入品だ。 少量しか食べない果物類は多少高価でも需要があるらしいが、輸入品の葉物野菜は人気がないらしく、結果として、野菜果物売り場の過半の棚が果物で占められるという異常事態になっている。 もっとも、庶民はこの時期は野菜を食べない訳ではなく、夏の間に酢漬けした胡瓜やトマトを大事に食べるのが北国の生活の知恵だったのだ。 このように時代が変化し、旧来の伝統文化と外来文化が混在する時期は、多少の不具合が起きても、未来に多少の期待が持てる限り大丈夫だ。

ところで、ヨーロッパは言うに及ばず、モスクワでも日本食は大人気で、日本食を供する店は二百店を超える。 ロシア人は英国人に比べ、味覚が日本人に近く、イクラなど「生」に対する抵抗も少ないから寿司バーも多い。 一方、モスクワに居住する日本人は千五百人程度だろうが、調理師さんは十数人しか居ないはずだから、ほとんどの店は「日本食モドキ」を出している事になる。

先日フランスで、農水省主導による「海外におけるレストラン認定制度」が発足した。 これは、レストランで供される自国料理の水準の認証を目的にしたものらしいが、平たく言えば野放しだった「日本食モドキ」を駆逐したい意図は明らかだ。 刺身をとんかつソースの中に満遍なく浸してから食べる事など、多くの日本人は願い下げだろうが、現地ではごく当たり前の事として広く流布している食事マナーだという。

振り返って、英国人や米国人が日本のゴルフをどのように思うか、などと議論する心算はないが、今や国民的スポーツに育った日本のゴルフを、今度は世界中のゴルファーが吸収、発展させようとしている事も事実なのだ。 今やウエアーや道具だけでなく、預託金システムの研究やクラブハウス内の風呂場の扱いなど、最近できた欧米の倶楽部は不思議なほど日本的な雰囲気が感じられる。

このような時代に、何が我々日本人のゴルフなのか、何がそうさせてきたのか、本質は何処なのか、改めて考えてみるのは今後のゴルフ界の発展のために、必要不可欠な議論だと思う。