株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2007年3月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第50回
 
ロシアは驚きに満ちている

昨冬はロシア人に言わせると「百年に二回襲ってくる厳寒年」だったが、今冬は「百五十年に一度の暖冬」だそうで、一月半ばまでモスクワ市内には雪が積もっておらず、肩透かしを食らった格好だ。
尤もこの暖冬はウラル山脈西側のヨーロッパロシアだけで、一月末からはモスクワの道路も凍結し、寒さが戻ってきた。

自然現象は言うに及ばず、ロシア駐在生活は驚きに満ちているので、今回は三つ例を挙げて考えてみよう。

最初の例は昨年の秋、突然市中から全ての輸入ワインやウィスキーが消えた事件だ。 原因は当局が輸入酒類の納税済シールの変更を決めた為で、納税倉庫で新タグに貼り替えられるまでの二ヵ月、国産ウォッカを除くアルコール飲料が酒屋の棚から姿を消した。 酒好きの小生などは、慌てて国外調達に走った(飛んだ)事は言うまでも無い。

二番目の例は、航空機を使ってロシアに入国する場合、機内で上陸に必要な書類を書くのが普通だが、昨年後半、英語ロシア語併記だったランディングカードが、ロシア語だけに統一された事件だ。 聞けばロシア外務省の担当官は米国の入国制度を例に出し、超大国は自国言語だけで通すものだと演説したらしい。 当然この措置は諸外国の旅行者から非難され、数ヶ月で旧に復したが、空港内の混雑は相変わらず続いている。 因みに、国際線のチェックインは出発の二時間前が普通だが、ロシアでは二時間ずっと行列する事を意味している。

最後の例は、年が改まった一月後半に国内移動を著しく阻害する通達があった件だ。 ロシアでは外国人は元より、自国民も常にパスポートの携行が義務付けられているのだが、そこに記載された住所域外に移動(引越しではない)する際は、移動届けを常時保持する義務が付加された。 つまり、東京から大阪に日帰り出張するにも、毎回公証人役場に行って正式書類を作成する必要があるわけだ。

このように利権が絡んで、誰が恩恵に与るか判りやすい施策が度々打ち出されると、民衆は何が起きてもビックリしないし、心ならずも自衛手段を講じる癖がつく。 具体的には、自分や家族を守るために、当局の監視さえなければ不正を働く事や、責任回避のための言い訳、親族や近親者に対しての特別待遇などだろうが、一番顕著なのは「他の人もやっているから」というモラルと常識のすり替え現象だろうと思う。

BRICS駐在員同士で話をすると必ず話題になるが、新興国の民衆は他人を出し抜く事こそがスマートだと感じている節があり、いくら道理を説いても理解できないそうだ。 公平にいえばロシアには、天才肌の理想主義者も存在し、清貧に甘んじながらもインテリゲンチャと呼ばれて慕われているが、実社会に対する影響力は無いに等しい。

蛇足だが「白系ロシア人」についても解説しておこう。 この言葉は革命が起きた時、国を捨てて逃亡した人達を指す言葉で、必ずしも白色人種を意味する訳ではない。 共産主義や社会主義の「赤旗」との対比で偶々「白系」になっただけなのだ。

現在のロシアはエネルギー産業の活況による好景気に沸き、遂にモスクワ市は世界一物価の高い都市になった。 ゴルフ場開発の話も複数聞くが、許認可にも多額の賄賂が必要だろうから、採算が取れるかどうか微妙だし、既存のゴルフ場は豪華イベント目白押しで、飽きっぽい成金相手の商売に傾きつつある。 当分景気の踊り場を睨んだ、神経質な展開が続くだろう。