株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2007年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第51回
 
フェアウエーの排水について考える

雪に閉ざされたロシアの春はずっと先だが、記録的な暖冬だった日本ではもうすぐ春雨の季節になるだろう。
今回は、今まで機会が巡ってこなかったフェアウエーの排水について纏めてみよう。

基本的にフェアウエー排水は、集水面積が広い事と排水距離が長い事が特徴だが、排水勾配はグリーン等と同じ1/200から1/50が普通だ。 降雨後に芝屑が波状に残るのを防ぐため、表面排水に頼らずに雨水を速やかに排出するには、土地の傾斜にほぼ直交した排水溝敷設が鍵になる。 排水勾配の不陸は、排水溝の断面形状にも拠るが、5ミリ以下に抑えるべきで、10ミリ以上あると泥やシルトが特定の箇所に溜まり易くなる。 集中豪雨の稀な欧州のコースでは、150ミリ径の有孔管を20mピッチで100m以上も敷設する事など珍しくない。が、雨の多い日本では、平坦な所でもピッチをずっとを詰める必要があり、管径と敷設距離によって求まる限界排水量も考え直す必要がある。 現代では地球の温暖化傾向と経済効率を鑑みて、毎時50oの降雨状態を限界能力に設定するのが適当だろう。

以上の条件下でフェアウエーの排水を考える場合、工作精度と工事費の両面から見て、キーパー自身がユンボ等の汎用土木機械を使って掘削作業するなど全く馬鹿げた事だ。 ロシアのゴルフ場なら、土木作業員の月収は5万円以下だから、シャベルとネコを使った人海戦術も可能性があるかもしれないが、高々数十mの溝に一週間もかけた挙句、不陸調整が必要な工事内容では、非難されて当然だと思う。 現在一般的と考えられているフェアウエー排水の設計は、工事費と集水面積と排水能力から割り出されたバランスの上に成り立っているのだ。 毎年雨季になると水溜りの処理に追われる原因は、技術に対する理解不足から標準解に頼りすぎることと、施工機材の知識が乏しく希求施工基準を満たせないためだと思う。 技術的に排水量不足が予想される場合、規格化された省力化施策は役に立たないのだ。

しかし現実は表土に石の混入が多すぎてトレンチヤーが使えなかったり、表層近くまで岩盤が迫っていたりするのだろが、そんな時こそ知恵を使うチャンスだと思う。 古典的な方法だが、薄い客土の厚みの中で処理可能なモール排水(モグラ穴排水)や、非常にピッチが細かくプレーの邪魔にならない畝と轍、フェアウエーラインの変更による表面流の速度コントロールなど、80年も前に提唱され現代では忘れられた手法などいくらでもある。 表層部分の処理だけでは不足なら、排水管が通っている場所より更に深い地中に注目すべきで、墓穴のような大穴を掘ってガラ石を充填し地下浸透を図る方法や、もっと深くボーリングして縦樋を通す方法、岩盤の裂け目に沿って排水する方法などもある。 更に、設計家や倶楽部とも協議する必要はあるが、開放溝(ディッチ)とヘビーラフを組み合わせてフェアウエーを分断する方法や、ポットバンカーを新設して収水する方法、思い切って池を増設(R.T.ジョーンズシニアによって改造されたオーガスタナショナルの16番などが好例だろう)する方法も可能性がある。

いずれにせよ、ぬかるんだフェアウエーは願い下げだ。 蛇足だが、地固めの方法として欧米では重機の反復運転(ロードローラーよりキャタピラ付のブルドーザー使用が推奨される)、日本では水締めが一般的だろうが、個人的にはバイブレーターと水締めの併用を標準解にしている。