株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2007年5月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第52回
 
ロシア居留の纏め

突然だが3月末にモスクワからスペインのバルセロナに転居することになった。
去りゆく国については何の未練も無いのだが、陸送とはいえロシアからの引越し荷物が、ラテン諸国に無事に届く可能性は限りなく低く、他の理由も含めると悲喜交々だ。 この機会に、2年弱居留した国について纏めておこう。

まず日本では経験できない自然環境だが、見渡す限りの平坦な大地と劇的に変わる日照時間、それらが複合した大陸性気候には正直驚いた。 また、極寒中でも動植物は生き抜く力を持ち続け、ある意味たくましさにも感動した。 経験上マイナス20度を境に世界が変わるが、氷点下8度など今や快適に感じるほどだ。

ゴルフに関係する事では、低めに揃った樹林の高さと多年生の常緑草が特異的だ。 凍裂で幹が割れるのかもしれないが、極限状況では水分が大気圧だけで吸い上げ可能な高さが樹高になるらしい。 よってロシアでは針葉樹も広葉樹も樹冠が10m近辺で一定し、北米大陸やアマゾンのような巨木森林は存在しない。

また植物学は門外漢だが、今まで見た事がない多年生の芝?が自然に生えている。 この草はゴルフ用には葉幅や粗密幅が広すぎるため使い難いが、夏場でも高麗芝のように地面を這う性質があり、管理コストは低減できそうだ。

さて社会状況については何度かレポートしたが、物価や人件費が高騰し、制度や人心が全く追い付いていない。 一例を挙げると、四十過ぎのロシア人は、社会主義が崩壊した15年前には既に社会人だったから、官僚的な考え方が身に付いてしまっている。よって資本主義に乗り遅れてしまい、若者との間に厳しい世代間格差があるのだ。 因みに日本と桁取りが違うが、今やロシアは億万長者が世界一多い国だそうで、彼ら全員が比較的若い成金だから、無分別な悪趣味になりがちだ。 また、モスクワの不動産価格は、毎月(!)2%以上の上昇率で、富の不均衡や格差を一層助長しているのだ。

一方ゴルフをするようなロシア人は、大半が留学か海外経験を持ち、流暢な英語を操る新興勢力だから、ロシア人の常識として運転手付の車でゴルフ場に現れる。 しかし日本の現状と異なり、彼らは例外なく壮年以下の若者で、私は未だにロシア人のシニアゴルファーには出会った事がないのだ。 また、体力や年齢が主たる理由だろうが、現在のモスクワは旧ソ連邦諸国を含め欧州を向いており、米国式のカートプレーに憧れはあるが、過半がキャディーバッグを担いでプレーする事を好む。

今後のロシアでのゴルフの位置付けは、経済動向に左右され変貌していくだろうが、暫くは日本と同じように欧州風と米国スタイルが無秩序に混在することになるだろう。 この事は欧米以外の新興国が、ゴルフに限らず欧米の模倣から脱却する事がいかに難しいかを暗示する例だろう。 19世紀後半から現在までの、ゴルフ場数と通貨レートをグラフにすると明らかだが、経済的な発展時期とゴルフ場の開場数は、タイムラグはあるが強い関連が認められる。 近年欧州が金融的に統合され、米ドルに対抗できる通貨に育った今、円に変わって元がアジアを代表する通貨にならないとは限らない。 同様にロシアルーブルや中東のイスラム通貨の動向が、世界中のゴルフビジネスを左右する時代も来るだろう。

他人事のようで申し訳ないが、日本のゴルフ界は時代を読み解く努力を怠っているような気がしてならない。